
どんな逆境にあっても、トップは動揺しているところを見せちゃダメ
(川淵さん)
加藤昔から言いたいことをはっきり伝える性格だったとか。
川淵そうね。サラリーマン時代も、相手が上司だろうが忖度しない。思ったことは言わずにいられなかった。それが一番いいと思うから。でも、若いときからビジョンを持っていたわけじゃない。思えば55歳を過ぎてからだね、人間的に成長したのは。
加藤55歳というと、Jリーグのチェアマンに就任された頃ですか。
川淵うん。あの頃からマスコミに批判されるようになって。読売新聞の渡邉恒雄さんにもずいぶんと鍛えられたなあ。
加藤「鍛えられた」のはめげない心とか?
川淵それもそうだけど、一番気にしたのは、動揺しないってこと。僕が動揺すると、周りや部下に影響してしまうでしょう。
加藤わかります。設定は異なりますが、番組の進行中にカメラの前でカンペを出している方が焦っていると、こっちもつられそうになりますもん(笑)。
川淵だよね。僕にとって印象深いのは、Jリーグが開幕して5年目に勃発した、横浜フリューゲルスと横浜マリノスの合併劇。一つのクラブが消滅するという話だから、サッカー界には危機感が充満していたけど、だからこそ、チェアマンである僕は泰然自若としていなきゃならないと固く心に誓った。僕が動揺したら、さらにおかしなことになると思ったから。サポーターが僕に直談判したいと言ってきたときも、Jリーグの関係者は「会わない方がいい」と進言してくれたけど、僕は会う、と。マスコミもたくさん集まっているし、ここで正々堂々とサポーターと対面して、誠意をもって説明することが、事態を収拾することになると考えてね。僕は割と顔に出ちゃうタイプだから、実は必死だった(笑)。
加藤アハハ。辛抱されましたね。
川淵顔には絶対に出しちゃいけない。これは選手時代の記憶なんだけど、プレーがうまくいかないとき、ベンチをちらっと見て、監督が平然とした表情をしていると、「おっ、まだイケるんだ」って前向きになる。逆に曇った表情だと、「やっぱりダメなのか」と弱気になる。そのことを身をもって知っているから、どんな逆境にあろうとも、トップとして感情を顕にしないように努めました。
加藤堂々としてなきゃいけないとなると、見掛け倒しにならないように備えも必要になりますよね。相手を納得させるだけの情報を用意しておかないと。
川淵僕はこう見えても、準備は念入りにやるんですよ。とにかく徹底的に情報収集する。長い間、リーグが分裂していたことで国際資格を剥奪された日本バスケットボールを改革するときもそう。ありきたりの知識じゃ難局は乗り切れません。多くの情報が必要になる。それをもとに何が大切なのか、どこを解決していくべきなのかを読み取っていくんです。そういう分析力は、サラリーマン時代に培われたんだろうなあ。マスコミにはプロ化する意義をよく質問されたけど、なるべく説得性のあるエピソードを盛り込みながら説明しましたね。今まで話がわかりにくいと言われたことはないし、自分自身でも一定の理解を得られたという実感を得ています。

2002年FIFAワールドカップ記念日本サッカーミュージアム
2002年日韓共催W杯がもたらした遺産を活用し、次世代のサッカー文化を振興させるために開設。日本サッカーの歴史を振り返る映像、トロフィー、メダル、ユニフォームなど、展示されているものはどれも貴重なものばかりで、ファンの探求心を満たしてくれる。
公式ウェブサイト:http://www.jfa.jp/football_museum/
住所:東京都文京区本郷3-10-15 JFAハウス
TEL:050-2018-1990