「読書」という体験は自分を鏡に映すことに等しい
先ほど、中野氏は「世間が何を求めているかを見極めるべき」と発言した。世相を反映するベストセラー本などはその手段になりえるが、聞けば、氏にとっての読書はあくまで内省する時間のようだ。「本には作家の思いや、作家自身の体験がちりばめられているでしょう? それに触れて、己を顧みるのです。自分はどうなんだ、と。『優雅なのかどうか、わからない』という作品は衝撃的でした。主人公が実に素敵な生活を送っていて、それが流れるような美しい文体で紡がれている。作者は、実は中学時代の同級生なんですよ。だからかもしれませんが、自分自身と照らし合わせて、自分の生き様はその次元に達していないなあと苦笑いしたりして。自分 の立ち位置、自分の世界の広さを自覚させてくれる。本の良さは、ずばりそこにあるのでしょうね」
限られた世界と価値観で生きている。そのことを中野氏に気づかせた作品は、他にもあった。短歌界で注目を集める歌人、九螺ささらが上梓した『神様の住所』だ。
「普通に暮らしていると、短歌に触れる機会はなかなか得られませんけど、私たちが主催するドゥマゴ文学賞を通じてこの本にめぐり合い、手前味噌ながら、今まで経験したことのない感動を覚えました。私は思うんです。芸術とは自己を主張するものであり、エンターテイメントは人のための作品づくりだって。それで言うと、これはまさに芸術ならではの、予定調和でない面白さに目覚めさせてくれる一冊。寿司屋でいつもは口にしない珍しいネタを勧められて、試してみたら飛び上がるほどおいしかったときの感覚に似ています。こういう新鮮な歓びを味わえるから、読書はやめられませんね」
BOOK
著者の世界を疑似体験することで
客観的に自分の立ち位置を知る
GLASS
東急文化村が大切にしている
“半歩先”のスピリットを体現したい

日本ならではの繊細な技が光る珠玉のボストン
現在、中野氏が愛用しているのはフォーナインズのボストンタイプ。プラスチックの印象を損なわずに独自のクリングスパッドが組み込まれ、掛けたときの心地よさと見た目の美しさを見事に両立している。

着るものの変遷と共にメガネもお色直し
「近頃、頭にいくらか白いものが交じるようになってきて、着るものが紺系からグレー系にシフトしています」と語る中野氏。メガネのフレームもそれに合わせ、柔らかい雰囲気のコーディネートにしっくり馴染むブラウン系を愛用するようになったそうだ。
[MEN’S EX 2018年12月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)