鏡さんの愛用品をチェック!(写真2枚)
その先輩バイヤーは、鏡さんの使うペン一本にも、伊勢丹新宿店の紳士部門スタッフとしてふさわしくないものには、ダメ出しをするほど、徹底した美意識の持ち主だった。しかし、社内の勉強会ではクラシコイタリアの基本から、スーツの構造などを新人社員たちに丁寧に解説してくれた、いわば恩師だ。
さらにリモデル前のテストトライアルで、国産のクラシコ系ブランドのリングヂャケットやライセンスブランドのフランコ プリンツィバァリー、マリアーノ ルビナッチなどに加え、インポートのサルトリア パルテノペア、カルーゾなどが導入されたとあって、鏡さんの本格的な紳士服への興味は深まるばかり。
リモデルオープン後、伊勢丹新宿店では新進テーラーの型紙を用いるメイドトゥメジャーのブランド、スタイルゲートを立ち上げるなど、本格的なスーツの提案を強めている。
社会人1年目でテーラリングの魅力を知る
「これらのブランドは、いままで選んでいたスーツと同じサイズでも、身体が楽に動く。一般的なスーツと一見、同じように見えながら、圧倒的な着心地のよさに感銘を受けました。ロータのパンツの穿きやすさや、サルトリア パルテノペアの丸みや心地よさ、手縫いの趣は今まで知っていた紳士服と全然違う。知れば知るほど、好きになっていくわけです」。
ほかにも、鏡さんを魅了した紳士服は尽きない。そのなかでも、特に印象深いのがメンズ館リモデルオープンに際し、導入されたバタクハウスカットだ。英国的な紳士服の魅力を知るとともに、色を控えた着こなしや、オールバックできっちりと整えたバタクハウスカット関係者の髪形がたまらなくかっこよく思えた。
「このとき、テーラーの洋服が石原軍団のように思えました。カッコよさが普遍的で男臭い。そんなテーラーの世界観が自分の好みに合致したんです」

リーマンショックが一つの転機に
その後、鞄・雑貨部門への異動があり、しばらく経った2009年、リーマンショックが起こった。これを機に、消費は一気に冷え込み、伊勢丹新宿店でも現実的な価格帯の商品を充実させる必要が出てきた。これが鏡さんの紳士服への考え方を変えるきっかけになった。
最高級のテーラリングの魅力を十分に理解していた鏡さんではあったが、再び紳士服部門に戻ったときはリーマンショックにより、今までと同じ提案をできる世情ではなくなっていた。
「そこで、あまり日本では知られていなかった、ガイオラ、アニセイ、フラルボ、L.B.M.1911、タリアトーレなど、手の届きやすい価格帯のインポートの編集を手掛けることに。フルキャンバス(芯地に毛芯のみを使う)で、手縫いしたスーツのような職人気質で長く愛せるものに魅力を感じるのは今も変わりません。けれど、企画を通じて、時代の気分に寄り添った現実的な価格のブランドで旬を楽しむのも面白いと気付けた。自分の気持ちに柔軟性が出てきたわけです」。