
復活祭の休日が近づいているので、たくさんのフィレンツェ人が町を離れると聞いていたが、土曜日にカミチェリア=シャツ屋さんのレオナルド(LEONARDO BUGELLI/レオナルド・ブジェッリ)に電話してみると、彼はまだフィレンツェの店で仕事をしているところだった。
もう夕方だったが、今から言ってよいかと聞くと、もちろんだというので、フラ・バルトロメオ通りの店にタクシーに乗って出かけた。
フォトギャラリー(写真4枚)
この店に来るのは何年ぶりのことになるのだろうか、店の入り口横の小さなショウウインドーには、お母さんが縫ってくれたという小さなベストとシャツが飾られていた。
彼は年に数度のトランクショーで日本にも来ているようなのだが、なかなかタイミングが合わずにいたので、お互い久しぶりの再会を喜び合った。
初めて出会った頃には結構な長い髪だったレオナルドも、最近は短い髪型になり、お互いに頭のてっぺんが齢をとったねと笑いあう。
そして彼と仲が良かったステファノ・ベーメルが若くして亡くなってしまい、ずいぶん淋しい思いもしたにちがいなく、ひとしきりステファノの思い出を語りあったが、ステファノの店は弟子たちが継ぎ、お兄さんのマリオ・ベーメルの店も繁盛しているというから一安心だ。
レオナルドとステファノは、ファッションセンスを分かち合っていて、お互いを高めあう良いコンビだったと思う。素晴らしい技術を持つ仕立て職人を探し出し、独特のジャケットなどを作ってもらっていたのを思い出す。
日本によく来るようになったレオナルドは、今やとても日本通となり、芋焼酎や日本の食にすっかり魅せられたというから、今度日本に来るときには、時間を作って一緒に美味しい物を食べに行こうと約束を交わした。
シャツ生地のたなを見ると、いつもながらのことだが、細かいピッチの品の良いストライプがたくさんあり、今の流行だろう細かな花柄のシャツ地も少し並んでいた。
さて楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。
帰り際、彼から素敵なプレゼントをいただいた。それは10年ほど前、レオナルドが見つけ出したヴィンテージのネクタイ生地で仕立てた、素敵なプリントが施されたネクタイだ。
これからの季節、麻のスーツを切る時にこのネクタイを締めて、フィオレンティーノ風の粋を気取って出かけようと考えた。
Leonard Bugelli
Via Fra Bartolommeo21r 50132 Firenze
Tel&Fax +39 055 570 600
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。