ジャケットからぴったりシャツの袖が出ること、襟のロールやフィット感。細部まで決まるのが嬉しいですね

生産者の顔が見える安心感、それもまたビスポークの魅力
オーダーで誂えた紳士服は、直しがきく。いい物を長く使うことの素敵さに目覚めた私にとって、これもビスポークの大きな魅力だ。白洲正子さんが旅行の時はルイ・ヴィトンのバッグと決め、長年にわたり愛用されていたことを読んだことがある。使い古されたヴィトンが手元にある雰囲気がたまらなくいい。そんな生き方を見習いたい。
最近、”エコ”を謳った商品が多いが、その実、故障した”エコ”な家電を修理に出そうとすると、既に部品がなかったり、新品に買い替えた方がずっと安上がりだったりする。経済がうまく回るためには”壊れたら買う”を繰り返す必要があるのだろうが、それではまやかしの”エコ”に過ぎない。どうも矛盾を感じてしまうのだ。その点、直して着続けられるビスポークスーツは、本質的に”エコ”なのではないかと思う。
また最近、野菜などの食品でも生産者の顔が見えることが求められるようになってきた。ネットの発達などにより顔を見なくても済む時代だからこそ、逆にみんなが、顔が見える信頼関係を心のどこかで望んでいるに違いない。洋服もしかり。生産者の顔が見える安心感が、ビスポークにはあるのだ。様々な角度から見て、ビスポークは時代の要請に合致するものを備えていると私は思っている。
実は、山田さんのヴェスティルで、もう1着、チェック柄のジャケットをオーダーしてある。仕立て上がった暁には、この連載の中でお披露目させていただこうと、今から楽しみにしている。

[MEN’S EX 2013年10月号の記事を再構成]
題字・文/中井貴一 撮影/熊澤透〈大阪取材〉、宮本敏明〈パリ取材〉、若林武志〈静物〉 ヘアメイク/藤井俊二 コーディネート〈パリ取材〉/南陽一浩 構成/松阿彌靖