
バイト代はほとんど洋服や靴に使っていた学生時代
獣医大に進学してからの様子を尋ねたところ、18〜19歳の頃、上野にあるセンタービルのインポートセレクトショップ ヤヨイで、週に一、二度のアルバイトをしたこともあるそうだ。また、武蔵境にあった大学への道すがら、吉祥寺(東京都武蔵野市)へ立ち寄るようになる。コアな店もあり、授業の合間に吉祥寺へ買い物に出かけるのが齋藤さんの楽しみでもあった。余談だが、吉祥寺はエルエルビーンが日本展開のごく初期から店舗を展開していた地である。その開業は吉祥寺を語るうえで、齋藤さんにとって忘れることができない。
当時の齋藤さんのお手本は原宿キャシディの八木沢博幸さん。「アイクベーハーのシャツなどを教えてもらいましたね。この頃、ほかにはフレンチっぽい着こなしも知りました。爽やかな雰囲気を加えたいと思って、セントジェームス、ルミノワ、オーシバルなどを取り入れてみたり、オールデン、アルフレッドサージェント、コールハーンといったシューズを次々と買ったり」。この頃の齋藤さんの好みはトラッドとカジュアルのミックス。MIT(マサチューセッツ工科大学)ロゴの入ったチャンピオンのトレーナーに、白いラルフ ローレンのボタンダウンシャツ、そしてショーツ。足下はソックス+モカシンや、コールハーンのローファーを合わせるといった具合だ。

スーツに目覚めたきっかけは成人式
次の転機は成人式。新宿のミツミネでスリーピースのスーツを仕立てたのだ。同じタイミングで買ったチーニーのシューズは当時、4、5万円くらいと高額だったがいまも愛用している思い出の一品。
「成人式をきっかけにスーツやドレッシーなスタイルへの思いが強まりました。なかなか買えなくても、スーツへの憧れは強かったですね。自分が22、23歳ごろになると、ファッション誌に登場するモデルの年齢が、以前よりも若くなって、純日本人モデルの登場がなくなっていた時代です。それもあって、MEN’S EXなどを読むようになっていきました」。
獣医から本格的にファッションの道へ
そうこうしているうちに、齋藤さんは大学を卒業。一旦、製薬会社に就職して大阪で働くことになった。2年後には製薬会社を退社し、東京で獣医の道へ進む。31歳になったとき、勤務医から開業医にステップアップすべきか悩んだが、獣医の仕事、動物にまつわる倫理観などを見つめ直した結果、獣医の職を去ることを決意した。次に吉祥寺の雑貨店でバイヤーを務めたのち、2008年にヴァルカナイズ・ロンドンをはじめ、数々の英国ブランドを展開するBLBGに入社。英国へ度々出張し、グローブ・トロッター、フォックス・アンブレラのリペア技術を習得し、当初はリペア職人として活躍していた。その一方で、優れたセンスと深い知識から、セールスマネージャーを任され、ヴァルカナイズ・ロンドンでオーダーメイドのフィッティングを行なうことに。

2016年にハケット ロンドン銀座に異動になってからも、的確なアドバイスと独自の提案力を求め、齋藤さんにフィッティングを依頼するお客様が後を絶たない。同僚の方によると、「色柄の使い方がとにかく個性的。主張が強すぎるのではと思っていても、彼の手に掛かるとうまくまとまってしまうのです」とのこと。