【中井貴一の好貴心】vol.4《蓼科に思う、大人の休日の意味》

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中井貴一さん、原生林
屋久島と見紛うばかりの原生林も、蓼科には残されている。その奧には、幽玄な滝もある。階段が整備されていなかった当時、愛犬とともに、山道をたどってよくここまで訪れたという。中井さんが「パワースポット」というのも頷ける景観が広がっている。

小津監督が「鉄管ビール」と呼んだ飲料で愛犬に起こった大変化

蓼科を愛した小津先生は、酒をこよなく愛したことも知られている。そして蓼科では、「鉄管ビール」も愛しておられた。「鉄管ビール」とは、鉄管を通ってやってくる水道水のことだ。それほど、この蓼科の水にも惚れていたのだろう。安全な水道水が出る国にあって、ペットボトルの水を買う日本人は、世界から見たら異常で贅沢な民族と映るかもしれない。

しかし、よい水を摂取するとどうなるか……、その実感を得るのは難しくはないだろうか。何となく安心というのが、正直なところだろう。しかし、動物を見ていると、その効果がてき面だ。ある時、我が愛犬を東京から連れ、山の家へ行ったときのこと。犬も、この地のカラッとした空気と、緑が大好き。まるで野性に戻ったかのように大はしゃぎし、たっぷりと水を飲む。すると、東京では黄色くべたついていた尿が、さらさらの無臭の尿に変わるのだ。これを目の当たりにすると、我々人間を含め、動物にとっての水の大切さを思い知らされる。

父亡き後も、夏休みになるとこの地を訪れた。高速道路もまだまだ整備されておらず、東京から7〜8時間かけての移動。外食する場は殆どなく、電話もダイヤル式以前の交換手を呼び出す方式、生鮮食品を入手することも困難だった。ただ、この地で作られた野菜は豊富にいただけた。

今思えば、避暑という名目で不便を味わいに蓼科へ出向いていた気がする。しかし、振り返ると、この不便さが、人と人との繋がりを深くし、人間が生きるために何が最も必要で、自然とどう触れ合えばよいのかを教えてくれたように思える。

今や、この地は私にとってのパワースポットかもしれない。

[MEN’S EX 2013年7月号の記事を再構成]
題字・文/中井貴一 撮影/熊澤 透 へアメイク/藤井俊二 構成/松阿彌 靖

2025

VOL.345

Spring

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