加藤カプコンのトップでありながら、ワイナリーをゼロから立ち上げたのは、どんな想いからですか?
辻本20年程前になりますが、ハワイのホテルのレストランで出会ったナパのカルトワインに興味を持ち、カリフォルニア中を探したんです。でも、どこを探しても見つからない。しかも手に入ったとしても下手すると100万円もする。そのとき、レベルの高いワインを手の届く価格で日本の人たちも飲めるようにしたいと思ったのがきっかけです。
加藤いいワインであるほど、みんなで開けて楽しまなければ意味がないということですね。
辻本そうです。ただ、それが本当にいいワインかどうか、自分の舌で理解できなければ意味がないとも思いました。そこで1万円以上の世界中のワインを1万本買って、初めのワインがプロデュースされるまでの8年間、六甲山の別荘に5、6人のゲストを呼んでは、銘柄がわからない状態で数種類のワインを出してテイスティングを繰り返しました。そうやっていくと、必ず最初に減っていくワインがある。これが自ずといいワインということになるわけです。
加藤やっぱり高いワインのほうが早くなくなるんでしょうか?
辻本それが、そうでもないんです。いかにブランドに惑わされてワインを選んでいたのかと考えさせられましたよ。
加藤自身の体験をもって真実を確かめようという姿勢は大切ですね。
辻本ちなみにケンゾー エステイトはナパのワイナリー以外に日本国内に4ヶ所の直営店がありますが、一人でいらっしゃるお客様の場合、フルボトルを注文する人は稀で、グラスで1〜2杯が平均的です。ですから、全てのワインのハーフボトルも作りました。値段も丁度フルボトルの半額。グラスでも全種類を飲んでもらえますが、このレベルのワインが一杯から手頃な値段で楽しめるのは、やっぱりうちだけだと思います。僕の場合、店に来るお客様の相手もあるので、毎日1人で1本半は飲んでいますが(笑)。
加藤二人で1本のワインをゆっくり味わうのも好きですが、ハーフとハーフで2種類を味わえたら、確かにうれしい(笑)。辻本さんは常に消費者目線で「何が足りないか」を考えていらっしゃるんだと感じます。
辻本つまるところ、どうしたらお客様が喜ぶかという世界の話です。
加藤それはカプコンの経営にも通じる姿勢ですか?
辻本そうしないと売れないし、売れないと儲からないし、儲からなければ潰れてしまう。ちなみにカプコンのゲームソフトの販売本数は約80%が世界で、約20%が日本。もう海外ブランドのようなものですね。

[MEN’S EX 2018年1月号の記事を再構成]
撮影/前 康輔 スタイリング/後藤仁子 ヘアメイク/遊佐こころ(piece monkey) 文/岡田有加