これまで、MEN’S EXでは、高度な腕前を持つ職人の方々を紹介してきた。彼らの持つ特別な技術は、これまでにも多くの場で分析されてきたが、実はテクニック以上に面白いのはそれぞれの人生だ。名人芸を生み出すきっかけは個性的な経歴があってこそ。この連載では、そんな名職人たちのユニークな人生を取材し、超絶技巧が生まれた背景を探ってみたい。
シューマニュファクチュアーズ[オーツカ] シューマイスター/坂井栄治さん 【後編】

Profile
坂井栄治(さかいえいじ)さん
1934年東京生まれ。終戦の少し前に新潟に疎開。終戦後、19歳の時に疎開先から東京に戻り、父親が勤務していた大塚製靴に就職。手工(手縫い)職人として修業を重ねる。これまでに様々な日本の要職の顧客に納めるオーダー靴の製作を担当するなど、非常に高度な腕前を持つ。2012年には功績を称え、日本メンズファッション協会からマイスターの称号を贈られた。2017年12月21日をもって職人を引退予定。
マイスターの称号を授与された


新しいスタイルの新橋のショップが人気になって10年経った2012年に新たな転機が訪れた。店舗が六本木ヒルズ内に移転し、今度はそちらが職場となったのである。また、2012年には坂井さんにとって誇らしい出来事も。日本メンズファッション協会からマイスターの称号を授与されたのだ。当時の資料によれば受賞条件は「当該分野において、卓越した技能と経験を有し、これを後世に広く伝承していく強い意思と能力をお持ちの方」、「合算して20年以上の経験を有する方」、「マイスターの称号に相応しい人格と認められる方」とある。