
たねやのご家族からぜひおいしい近江牛を、と会食に誘われ親交を深めたのが、琵琶湖南端近くに位置するロイヤル オーク ホテルのステーキハウス「ISHIYAMA」。カウンター席では、琵琶湖に映る美しい夕陽を眺めながら、中井さんも唸った極上の近江牛の鉄板焼きをいただける。
滋賀県大津市萱野浦23-1 TEL:077-543-0111
都市部ではできない地方ならではの街づくりの可能性
山本 たねやは145年を超える商いを近江八幡でやらせて頂いていますが、地域があっての私たちなんです。ラ コリーナの敷地も、世の中から一時だけお預かりしていると思っているんです。そう状態で返してしまえば、持続可能ではなくなってしまう。近江八幡エリア全体を含めて、きれいに、大きく、いい形で、次の世代、また次の世代へとお渡しさせてもらいたい。将来、東京とか京都では食を通して五感を鍛え、自分で判断することがすごく大切。そのために子供の立場に立って、大人たちがもっと考えなきゃいけない。であれば、お預かりしたものを、汚いなく、近江八幡で暮らしたいと思ってもらえる人が一人でも増えたら、というところから始まっているんです。
これから先、10年、20年、もしかしたら50年かもしれないですが、あのときああしておいてくれたおかげで、この近江八幡が世界から注目されるようになったんやと思えるようなラ コリーナ構想をしたい。もっともっと将来を見据えていくと、私の代ではできないと思いますが、ラ コリーナだけではなく、信長で知られる安土城跡のお城の山の界隈を含め、これこそ近江八幡やなと思えるような環境づくりができれば、いろいろな業種の方々も元気が出てくるんじゃないかなと思っているんですね。ですから、ラ コリーナはきっかけで、これから近江八幡を我が家として考えて、どういうふうにしたほうがいいんやということを、お菓子屋のレベルでいろいろ夢を持ちながら、環境作りをやっていきたいんです。

「ラ コリーナ近江八幡」滋賀県近江八幡市北之庄町615-1 TEL:0748-33-6666 営業時間:9時〜18時 年中無休(1月1日を除く)
信長の天下取りを思わせるような壮大な構想
中井 昔の天下取りの信長とかって、そういうことを考えて他国に侵略していくというか、もっと戦略的なことを考えていたんだろうけれども、山本家はよくするためにどういうふうに広げていくかということを考えるわけでしょう。だから、お菓子屋さんのレベルというんだけれども、ものすごい高度なお菓子屋さんのレベルじゃないですか。一億総活躍時代といいながら、文明を発達させて人減らしをしようとしている社会が存在している中で、たねやさんは、人を集めて雇用して、まだ人が足りないんですと言っている。そういう社長の生き方や考え方、先代の会長から伝わってきていることだったりを、もっと知ってもらわないともったいないという気がしたんですね。
山本 私どもの経営理念の中に商いの道は人の道であるというのがあるんです。自分だけがよかったらいいというんじゃなくて、人の道からそれるような商いをしていたら、そのときはよくても、必ず誰か、神様を含め、皆さんに見られている。長く続けるのであれば、なんぼ売れようが、人の道じゃないと思った時点で、販売してはならないという鉄則があります。そこを踏まえて、ラ コリーナにおいても変えてはならないものと、どんどん変えていくものを分別しながら今も商いをしています。
中井 原点がぶれてないんだと思うんですよ。会長に聞いたら、僕は商売については息子に何も教えていない、生き方しか教えていないと。その生き方のベースが崩れていない。新しいものを始めるときに、元を捨ててこっちに移行していくということを繰り返していると、結局、どんどん薄まって元、つまり原形がなくなってしまうことが多いんだけれども、ここには原形、つまり初代が起業した時の理念・精神がずっと残っている。そこに新しいものを入れながら、近江八幡の自然を融合させ、どんどん代謝させていっている。お蔭様としての精神が、たねやさんの強さなんだって思うんですよ。

[MEN’S EX 2017年12月号の記事を再構成]
題字・文/中井貴一 撮影/熊澤 透 ヘアメイク/藤井俊二 構成/まつあみ 靖