
Profile
右:俳優 中井貴一
1961年東京生まれ。映画、テレビ、舞台で幅広く活躍中。佐々木蔵之介さんとのダブル主演映画『嘘八百』が2018年1月5日公開予定。また3月放送予定のフジテレビONE/TWO/NEXT×J:COM共同制作連続ドラマ『記憶』で主演を務める。
左:たねやグループCEO 山本昌仁
1969年たねやの4代目として生を受ける。19歳より10年間、和菓子の修行を積む。’94年全国菓子大博覧会で最高賞を史上最年少で受賞。’11年たねや社長に就任。洋菓子部門「クラブハリエ」グランシェフを務める弟の隆夫氏とともに、たねやグループの成長を推進。
中井 僕ら俳優というのは、余暇に存在している商売じゃないですか、映画見るとか、テレビ見るとかって。そういう人間が無駄がなくなってどうするのって思うんです。遊ぶことを忘れたら、世の中に夢なんて売れるのって。何かそういうゆとりがお菓子に移行していく商売だというのが大事なんじゃないかと。
山本 今、通販でも何でも、ボタンを押したら買える時代なんですね。それをわざわざ近江八幡のラ コリーナに行かなければならないというときに、普通の商売をしていたのでは誰も来ていただけません。地域一番店では絶対だめ。世界でナンバーワンと言われるような店舗づくりをしていかなあかんということになったら、それなりに全てに角がないというのか、真ん丸にして、裏もなく、全てお客様に見ていただける空間づくりというのを目指したんですね。そうしたときに、東京や大阪や京都にないのは、やっぱり余裕なんです。ここは上に建てる必要がないんです。土地がありますから、横にどんどん(笑)。
中井 山本社長はじめ、たねやさんのご家族は、国内だけでなく、海外のいろんないいものを見て、いい意味で遊んでおられる。だから施設は近代的でオシャレで、若者が凄く集まってくるような店づくりができている。でも、いつでも自然に帰せるというか、自然を人間に寄せるというよりも、自然の中に人間ができる最小限度のものを置いて、商売をされている感じがするんですね。
山本 ラ コリーナのテーマは”自然に学ぶ”なんです。震災や原発の問題もそうですけれども、地球が無理をしているというのが現状だと思うんです。地球を利用してきた時代から、自然をお師匠さんにして、自然から学ぶというのが、次の時代、その次の時代へと繋がっていくことになるんじゃないでしょうか。
中井 社員の方が、駐車場の周囲にどんぐりを自分たちで植えたっていう話を聞いてびっくりして(笑)。
山本 ラ コリーナを見てもらうと分かるんですが、ほとんど自分たちの手で作ってるんです。草屋根の草も植えたし、壁も塗ったし、店内の壁に炭を貼っているんですが、まず炭を自分たちで焼いて、それを貼っていったり。ラ コリーナ構想というのは、出来上がったときが100パーセントで、そこからどんどん朽ちて下がっていくような店ではダメなんです。オープンというのはきっかけで、そこから物語が始まっていかないといけない。
徹底的に”食”にこだわった保育園で五感を鍛える
中井 社員さん向けの保育園もなさっているんですよね?
山本 従業員の7割弱が女性ということもあって、朝、手をつないで一緒に出勤して、手をつないで帰れる、そんな環境ができたらいいなということで13年前に始めました。「おにぎり保育園」っていうんです。私の母親が作ってくれたおにぎりは、室内で遊ぶときには小さくふわっと、外で遊ぶときには、大きくぎゅっと、暑いときは腐らんように中に梅干しを入れて握ってくれてたんです。もうなんでもええから弁当作ったらいいじゃなくて、その子どもがどういうシーンで食べるかを考えるのが、思いやりやと思うんです。相手のためを考えられる子どもに育って欲しいという意味合いで「おにぎり保育園」。保育園をやるからには、食ということを徹底して教えているんです。私も小さい頃、両親からいいものを見る、いいものを食べるということを、すごく教えられました。例えば、私どもの栗饅頭とよその栗饅頭と食べ比べてみたとき、変わらないと思ったら、絶対金額的に安いほうに走ると思うんです。いい素材を使っていて、これだけ手間がかかっている、ストーリーがしっかりしているものと、そうでないものとの圧倒的な違いを小さいときから植え付けていかないといけない。
最近の子どもは、スーパーで人参に土がついていたら汚いと言うんです。言葉で教えるよりも、自分で畑を耕して、人参は土の中で育つと分かれば、「これって当たり前や」と言うんです。大きさの違いがあるのも当たり前。そういうことが分かってくると、普通に食べるんですよ。自分たちで育てたものやから、ありがたみを持って。今は必要な分だけを自由に選べる時代ですから、これ嫌い、あれ嫌いと言うてても、世の中で生きていけるんです。でも、そうじゃない。この一つの人参がどういうストーリーでできてきているかということが分かったら、絶対にごみにはしないだろうというところを今、保育園で教えなあかんと。うちの保育園の子は、夏場は裸足なんです。ある程度、小さい間に外を走り回って、傷付く、痛い、血が出る、けんかした、涙出る、暑い、寒い、そういう肌で感じることをしっかりもたなければいけない、というのが私どもの考え方です。
中井 五感を鍛えるということですよね。今、視覚で判断することがすごく多くて、賞味期限も目でしか見ない。昔は、ばあちゃんに「これ大丈夫?」って聞くと匂いを嗅ぎなさい、舐めてみなさい、それで「カビ生えてない?」って最終的に視覚で言われて、じゃ大丈夫って言われて口にしてたわけ。多少「あれ?」って、最後の一口ぐらいがちょっと酸っぱく感じたこともあったけど(笑)。でも何かそういうことがやっぱり世の中に欠けてきてる。戦争を経験して、生きることに必死だった親たちが教育した時代から飽食の時代へ、さらに飽食の中に生まれた人たちには危機感がないから、より危機感のない子どもたちができてくるという循環が、現実としてあるわけですよ。それも平和ぼけの一つだと思うんです。
これからの世の中は、子どもの立場に立ったときに何なんだということを、もっと大人が考えなきゃいけないって気がする。こういう趣旨の保育園を周りの大人たちがつくっていこうよってそういう環境をつくっていこうとするとき、もしかしたら東京よりも地方のほうが適しているのかもしれないですよね。土地が安いんだし、東京でやろうと思ったら土地代が高いわけでしょう。今回ラ コリーナを取材しようと思ったのは「地方だからこそ、こういうことができるんだ」ということを実行されている好例のような気がしたというのも大きな理由なんです。