技術とは何か?

藤井さんに現在の鞄について聞いてみた。超一流と言われるブランドですら、消費の流れに巻き込まれ、高度な職人の技術が失われつつあるようだ。
「鞄がファッションになってしまうと、クオリティは関係なくなります。仕立てがいかに丁寧かということよりも感覚的なものが優先されます」
実は藤井さんには10年くらい前に嬉しいことがあった。?漆(きゅうしつ)という木に漆を塗る工芸品を作る、人間国宝の方と「技術とは何か?」について話し合う機会があったのだ。その方は「技術なんてない。次の状況(工程)にベストな状態を作るしかない。いつでも次の状況がベストになることを目指せばいい」と藤井さんに語った。
「僕は15年くらい前に、仕事が軌道に乗りましたけれど、それまでは『お金にならないなら、それは趣味だ』と、いろんな人に言われて悩んでいました。お金になる仕事を探したほうがいいのか、なんて思っていたけれど、常にベストを尽くす、モノ作りの姿勢の素晴らしさに気付けた。お金のために動いたものはロクなものになりません。企業はお金を基準に動いていますね。そういう人たちに私たちの作品が負けるわけがない。今はそういうもの作りがあってもいいと言えます」
現在、Fugeeではこれまでになかった新しい取り組みもはじまっている。それが口枠のついた鞄づくり。口枠というのは、鞄の開口部に金属の枠を取り付け、大きく安定した口の開きを実現する部品だ。通常はがま口のような開き方をするのが一般的だが、藤井さんが夢中になっているのは、棒屋根と呼ばれる形状で、閉じていると棒状だが、水平に開き、口が四角くなる独特の仕様。英国のアンティークの鞄についていたものを外して磨き直したもので製作を準備する一方、真鍮製の自前の口枠も開発した。
「図面は10年ほど前に引いていました。ずっと口枠の鞄を作りたくて仕方がなかった。でも、(口枠の金具の製造を)引き受けてくれる工場がないんですよ。つい最近になって、ようやく作れる工場が見つかって口枠のサンプルが出来上がってきたばかりです。今年中には口枠付きの鞄が完成できると思います」
優しい語り口が印象的な藤井さんだが、その内面には鞄づくりの技術を追求する情熱が、何十年も休むことなく燃え続けている。これからも藤井さんの、とどまらない創作活動に注目していきたい。
INFORMATION
「Fugee」公式ホームページ
http://fugee.jp/
「Fugee」facebookページ
https://www.facebook.com/Fugeebag
「リアルビスポーク」facebookページ
https://www.facebook.com/realbespoke/
撮影/久保田彩子 取材・文/川田剛史