リアルビスポーク展への思い

渋谷では鞄づくりの教室も運営しながら、自分の鞄づくりを懸命に続け、気が付けば18年の時間が流れていた。引っ越してきたころは「渋谷のチベット」なんて呼ばれるほど、のんびりして環境の良い場所だったが、時間とともに並んでいた立派な家々は姿を消し、騒々しさが目立つようになってきた。環境の変化に疲れたこともあり、藤井さんは豊島区へ工房を移転し、現在に至る。
工房を移転したころ、藤井さんが始めたのが「リアルビスポーク展」。ヒロヤナギマチ、羊屋とともに、作品を展示し、職人の技術と手仕事の魅力を発信するイベントだ。便利な渋谷から、商業地ではない現在の場所へ移転して、お客さんが今まで通り足を運んでくれるのだろうか?との不安もあって、自ら情報発信をすることに決めたという。
しかし、そんな心配は取り越し苦労だった。結果的には若いファンも増え、従来の顧客も今まで通り足を運んでくれている。現在ではFugeeの鞄は6年待ちということからも人気ぶりがうかがえる。

コラム:藤井さんの工房を拝見!
藤井さんの工房は現在、豊島区要町にある。工房で実際に使用されている道具、そして藤井さんの心強い相棒、金原リエさんを紹介してもらった。
金原さんは、もともと藤井さんの主宰する鞄教室の生徒だったが、とても優秀だったため、藤井さんの片腕となった人物。いまではFugeeの鞄を共同製作しており、工房に欠かせない存在だ。現在は藤井さんが進めている口枠を使った鞄づくり(次ページで紹介)をともに進めているが、それが一段落したら、自分で取り組みたいアイデアがあるという。
それはなんと和に似合うバッグ。金原さんはお茶や着物といった和の世界にも造詣が深く、和服の女性に似合う上質な鞄が必要だと考えている。和装に洋服のときと同じ鞄を合わせるよりも、和装にこそ似合うバッグを。女性ならではの繊細な感性がどんな形になるのかは実に興味深い。