バック・トゥ・ザ・フューチャーに憧れて

「最初にファッションを意識したのは小学校6年生の頃でした。ハリウッド映画を見てアメリカのカジュアルファッションにとても魅力を感じたのです。ありがちですが、父が借りてきたビデオで見た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を鮮明に覚えています。主人公が履いていたナイキは買いませんでしたが、アメカジに憧れてリーバイスの501やコンバースを手に入れました」
小学生時代の憧れはそのままに中学生、高校生と成長する西口さんだが、やはり、まだ子どもなので、洋服を買う予算はない。
「安くおしゃれを楽しみたいということで、いつも選んでいたのは古着。当時は今よりも世の中に古着が潤沢に流通していたと思います。リーバイスのほか、ミリタリーものが好きでした。高校生のときにMA-1が流行したときは、コピー商品じゃなくて、アヴィレックス製が欲しいなんて言っていました(笑)。高校生なりに本物の良さを手探りで知ろうとしていたのでしょうね。本物が欲しいという感覚は、昔も今も変わっていません。ほかにはM-65やOG107、CPOシャツ、Pコートなどがお気に入りだったのを覚えています」
ファッションにのめり込む一方で、高校時代の西口さんはラグビー部に所属。大学生になると、ラグビーはせずに、今度はアルバイトに没頭。高校時代に通っていた古着屋で面接を受けて無事にアルバイトスタッフとしてファッション業界の一歩を踏み出すことになった。
コラム:思い出の一枚

古着の次はデザイナーズブランドに夢中に
「大学生になった時、なにをしたいのかを考えて、行きつけの古着屋に面接を受けに行きました。アルバイトで稼いだお金を全部ファッションに費やせるなと思ったのです」
アルバイトを始めた頃、復刻やデッドストックといったビンテージブームは一段落しており、代わりにベルギーのアントワープなどから発信される、コンセプチュアルなデザイナーズブランドが注目を集めていた。なかでも西口さんを夢中にさせたのはダークビッケンバーグ、アレキサンダー・マックイーン、ジル・サンダー、ヘルムート ラングといった輝かしいブランドだ。
アメカジを中心とした古着を経て、デザイナーズブランドに開眼した西口さんは、次にデザイナーズブランドを中心としたセレクトショップでのアルバイトを開始する。デザイナーズブランドに明け暮れて2年ほど経った大学三年生の時に、さらに新たなファッションと出会うことになった。
コラム:西口さんの”思い出の私物”を拝見!
西口さんのワードローブから、思い出のアイテムを披露していただいた。アメカジやクラシックとジャンルは違えど、本物で普遍的な魅力を持つアイテムが揃っているのがお分かりいただけるだろう。
クラシックの魅力を友人から説かれる
「そのときの友人に、デザイナーズブランドだけでなく、クラシックなファッションも愛好するという人がいたんです。彼から、いろいろなことを聞いているうちに、クラシックな装いにとても興味が湧いたのです。自分に本当に似合う洋服とはなにかを考え始めるきっかけにもなりました。当時の私はクラシックな装いのことがまったく分かりません。たとえば、本格的な革靴などもそう。今思えば、すでにクラシコイタリアが流行していた時代で、落合正勝先生の本も出版されていました」
「友人との出会いで、私の志向が大きく変わり、クラシックなものは長きにわたって着ることができるエターナルなものであると理解できたわけです。たとえば、オールデンの靴なら、流行に左右されず生涯履けますよね。と、同時にデザイナーズブランドのはかなさにも気付いたわけです。それまで『古く見える装いは格好悪い』と思っていた自分が、消費のシステムに踊らされている気分になりました」
そこからの西口さんは、MEN’S EX、ビギンなどの雑誌をはじめ、洋書や海外の雑誌まで読むようになり、クラシックの世界を探求する一方、新たな視点で古着に再び目を向けることに。かつて、古着に夢中だった西口さんの目に留まっていたのはワークやミリタリーのようなものばかり。しかし、クラシックの視点を備えたことで、ブルックス ブラザーズのボタンダウンシャツなど定番品の価値が見えてきたのだ。
(後編に続く)

※この記事は前編・後編にわけてお送りします。 >>[後編]はこちら
INFORMATION
西口さん肝入りのイベントが開催される!
「STILE LATINO MORE VARIATION」
西口さんの発案で、ビームス初となる、スティレ ラティーノのモアバリエーションイベントが開催される。ジャケットやスーツ、コート、タイに至るまで、通常取り扱いのないモデルや生地などを一堂に会したイベントだ。西口さんが、愛してやまないというスティレ ラティーノ。その魅力にぜひ触れてみて欲しい。
会期:2017年10月13日(金)〜22日(日)
場所:ビームス ハウス 丸の内、ビームス ハウス 六本木
撮影/久保田彩子 取材・文/川田剛史
※表示価格は税抜き