
おなじみの6リッターW12ユニットは直接噴射と間接噴射とを使い分ける第二世代に進化しており、いまやアイドリングストップや気筒休止、セーリング走行もできる。普段はこの上なく静粛で滑らか、それでいてドライバーが望みさえすればスーパーカー級の加速力(0-100km/h加速4.1秒)と最高速(301km/h)をいつでも発揮できるところにこのエンジンの真価があるわけだが、これに抜群の見晴らしが加わるのだから、市街地でも高速道路でも、そしてもちろんオフロードでも、もう向かうところ敵なしである。新しいW12はエネルギー効率も従来型と比べて11.9%向上しているのだそうで、EUドライブサイクルに基づく申請値で郊外11.0km/ℓ、市街地5.2km/?、混合7.8km/ℓという参考燃費が発表されている。市街地7割、高速道路3割ぐらいの比率で走行した今回の試乗では、車載の燃費計でおよそ6km/ℓを示した。2.5トン超の車重と驚愕の動力性能を考えれば優秀と言うべきだろう。

最後に申し上げておきたいのは、メーカー希望小売価格の2739万円はあくまで”開始価格”であるということだ。特別な内外装を選ばなかったとしても、アダプティブクルーズやナイトビジョン、自動ブレーキ、オフロードモードといった、高級SUVなら付いていて当然の機能がパッケージオプションとして各々加算されていくので、それなりの仕様にするにはオプション代だけで1000万円!ということも珍しくない。今回の試乗車もオプション代を含めた車両価格が約3300万円となる。W12搭載のベンテイガには価格を抑えたオニキスエディションという限定車(2399万円)もあるが、こちらも状況は同じ。「12気筒のベントレーが2000万円台前半で買える」という報じ方は間違いではないけれど実態に即していないのだ。念のために、オプション一切なしでも売ってくれるのか訊いてみたら答えはイエスだったが、顧客の大半はフル装備を望み、オプションをひとつも注文しないような人は皆無らしい(そりゃそうだ)。本体価格だけならベンテイガより高価なSUVもあるけれど、そういう比較にあまり意味がないことは知っておいていただきたい。やはりベントレーは、ビスポークを基本とする雲の上のクルマなのである。
ペンディカの内装(写真4枚)
「セント レジス ホテル 大阪」(写真2枚)
文/内藤 毅 撮影/田中秀宏 構成/iconic