
メルセデス・ベンツの「AMG」、BMWの「M」、アウディの「AUDI SPORT」など、ジャーマン3にも見られるようにスポーツカービジネスにおいて、特別な”ブランド”をもつことは重要な意味をもつ。
9月19日、トヨタが新ブランド「GR」を発表した。この「GR」とは、WRC(FIA世界ラリー選手権)やルマン24時間レースが代表的なWEC(FIA世界耐久選手権)への参戦など、現在のトヨタのモータースポーツ活動を司る「GAZOO Racing(ガズーレーシング)」を略したものだ。
商品体系は大きく3つに分けられる。エンジンやシャシーなどまで手が入った台数限定のコンプリートカー「GRMN」、エンジンをのぞくすべてがチューニングされた量産型スポーツの「GR」、日常での使いやすさを重視し、専用デザインの内外装とシャシーにのみ手が入る「GR SPORT」で、ヴィッツや86をはじめ、アクアやプリウス、さらにはヴォクシー/ノアといったミニバンをベースにしたモデルもラインナップされた。

そして「GAZOO」とは、豊田章男社長が課長時代、約20年前にディーラー業務改善の一環として手掛けた中古車の画像(「がぞう」をもじって「GAZOO」!)を使ったシステム、GAZOO.comに由来するものだ。”変革や挑戦への旗印”という意味を込めたものという。
発表会にサプライズ登場した豊田章男社長は、EV(電気自動車)をはじめ自動車の歴史において大きな変革期を迎えている現在においても、自動車を単なる移動手段やコモディティ化したものにするのではなく、愛車という言葉があるように、自動車は”愛”の文字が付くものであり、ファントゥドライブを追求し、トヨタでも面白いクルマを作れるんだということを示していくと抱負を語った。

ちなみに他の日本メーカーにもスポーツカーブランドは存在する。日産のNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)やスバルのSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)がそれだ。ラインナップ数など規模の違いはあれど、レースに参加し、標準車をベースにチューニングカーやコンプリートカーを作るという意味では同じだ。
しかし、GRとして目指すものはその先にあるという。「GAZOO Racing」カンパニーのプレジデントである友山茂樹専務は、将来的には専用のプラットフォームをもった世界に通用するピュアスポーツカーを世に出していくと話した。
フェラーリをはじめとする高級スポーツカー専業メーカーをのぞけば、量産メーカーがスポーツカーを作ることは難しくなってきた。近年はトヨタ86&スバルBRZ、マツダロードスター&フィアット124スパイダー、そして年内にも発表が予定されている新型トヨタスープラ&BMW Z4などに見られるように、メーカーの壁を乗り越えて共同開発、生産を行うことでビジネスとして成立させている。
実はこの発表に先駆け、この4月「GAZOO Racing」は、カンパニー制を敷くトヨタ内で独立したカンパニーになっている。世界最大級の自動車メーカーであるトヨタが、あえてこの激動のタイミングでモータースポーツ&スポーツカー専門のカンパニーを立ち上げ、景気に左右されない永続的なモータースポーツ活動とスポーツカー作りへ挑戦するという試みは、クルマ好きにとっても、ビジネスマンにとっても大いに注目だ。
ヴィッツ、アクア、プリウスもスポーツ仕様に!(写真20枚)
取材・文/藤野太一 構成/iconic