かつて、日本最高の仕立てと賞賛された、アパレルブランド「天神山」のスーツを生産していた工場は、近年、「東和プラム」として再出発し、新たな道を歩んでいる。スーツを仕立てるうえで何が最も大切なのか。その技術の礎を、岩手県の花巻で見た。

今月のいい工場(ファクトリー)
岩手 – 東和プラム

教えてくれる人
ファッションジャーナリスト
矢部克已さん
メンズファッション誌編集部を経て渡伊。本国の服飾文化を吸収して帰国。ピッティ・ウォモを欠かさずに取材。常に「ファッションの現場」が気になるいま、この連載に力を込める。
イタリア人モデリストが服づくりを徹底指南し、日本屈指の縫製工場に成長
極上の美と着用感をもたらす”純正かま襟”という秘技
多くの休耕地が広がる花巻市。JR新花巻駅から車で5分ほど走ると、赤い屋根の建物が見えた。のんびりとした土地に「東和プラム」は建つ。
【歴史】
名古屋に本社があったアパレル会社の「天神山」が、1972年に開いたジャケットづくり専用の工場「プラムイワテ」から、再スタートを切ったのが「東和プラム」である。なぜ、名古屋の会社が遠い東北の岩手県に縫製工場をつくったのか。ひとつの理由は誘致。もうひとつは、広い視野で見ると、地元の生活文化にもあるようだ。東北の主産業は農業だが、畑仕事をしながらも、手の空いた女性は、裁縫で稼いできた歴史がある。それが服づくりに適した土地の基盤となった。