日本の優れたショップとファクトリーを、毎号交互に紹介していく新連載。個性的で稀少な品揃えの隠れた名店や、日本人の繊細な感性を生かしたモノ作りが、ファッション・マーケットを活性化させる。第1回目は、京都に佇む”謎めいたショップ”である。ナビゲーターは、ファッションジャーナリストの矢部克已さん。

今月のいい店(ショップ)
京都 – カプリ

教えてくれる人
ファッションジャーナリスト
矢部克已さん
メンズファッション誌編集部を経て渡伊。本国の服飾文化を吸収して帰国。ピッティ・ウォモを毎回取材。常に「ファッションの現場」が気になり、この連載を思い立つ。
京都で開業16年。いまでは世界各国から古着の目利きが訪れる
好奇心を満たし、時間を忘れる圧倒的な逸品の数々
烏丸御池駅から三条通りを歩き、「イノダコーヒー三条支店」を通り過ぎ、麩屋町通りを右に曲がる。年季の入った威厳のあるビル。1階はイタリアン、2階が「カプリ」だ。ビルの階段の壁にはアーティスティックなレリーフが飾られ、その反対側にショーウインドウが見える。気軽に入れる雰囲気ではない。
【人物】
古着屋の紋切り型のイメージといえば、見下ろした物言いの少々高圧的なショップスタッフではないか。しかし、店頭に立つオーナーの田中聡介さんは違った。関西弁のソフトな声質を持ち、ひとこと店頭の商品を説明しただけで、古着に対する情熱が伝わってくる。田中さんの社会人としてのスタートは、大手ハウスメーカーだった。赴任先の静岡にいた頃、地元の古着屋を巡り、休日には東京や横浜のショップへ。元来好きなファッション。稼いだ金をすべて服につぎ込んだ。勤めていた会社には不満はなかったが、どんどん服に魅せられ、退社した。米国大手のデニムメーカーで営業や販売を経験し、独立の準備に入った。米国、英国、フランス、イタリアを巡り、古着に触れながら、名店が醸し出す空気感を十分に味わったのだ。
カプリ ショップギャラリーを見る(写3点)
【店内】
衝撃を与えた店が、イタリア・ミラノの「10コルソコモ」だった。「エルメス」や「サンローラン」のヴィンテージがあり、アンティーク家具が並び、新作のファッションを混ぜる。流れる音楽は気持ちがいい。「こんな店をやりたい!」と。その頃、田中さんの周囲にいた、洒落者たちが最高の旅先としていたカプリ島を店名とした。ヴィンテージ・ショップのイメージに直結しがたいが、カプリ島のような夢と希望に満ちた店づくりを目指した。だからなのか、商品レイアウトはセオリーとは異なり、入口正面に高額で稀少な商品をドーンと置く。商品を高く積み上げないことなど、一定のルールを敢えて無視する。
【アイテム】
年間120日ほど仕入れに費やす。大量に仕入れるより、時代を代表する名作や名品を探す。それでも一度海外に出ると600kg以上にもなる。1930年代の「バブアー」、’50年代のシューホーン、’70年代の「ディオール」のシャツ、「フローシャイム」の『インペリアル』など、掘り出し物が所狭しと並ぶ。
【ポリシー】
座右の銘は”やり方は3つある”。「ひとつは正しいやり方。ひとつは間違ったやり方。もうひとつは俺のやり方」。かつて映画で観た保安官ワイアット・アープの言葉だ。田中さんは最も自分らしい方法で店を育て続け、本物の服好きを京都まで足を運ばせる空間に仕立てる。想像だにしない逸品に出合える感動が、ここにある。
カプリ ショップギャラリーを見る(写2点)
カプリ
住所:京都府京都市中京区麩屋町通
三条下ル白壁町442 FSS BLD.2F
TEL:075-211-5221
営業時間:正午〜20時
定休日:不定休
ホームページ: http://www.capri-kyoto.com/
[MEN’S EX2018年7月号の記事を再構成]
取材・文・写真/矢部克已(UFFIZI MEDIA)