日本全国 アートと自然を愛でる癒やしの絶景美術館
心地よい空間や美しい景色のもと、思い思いにアートと向かい合う。美術館を訪ねる目的はさまざまだが、非日常感を味わいながら、心を癒やし、明日への活力をチャージする場所として美術館を楽しんでいるかたも多いことだろう。本特集では展示作品はもちろんのこと、そのロケーションや建物も一体となってアートを堪能でき、心癒やされる美術館を全国各地で探した。ご紹介する美術館は季節を問わず、いつ訪ねても、その時ならではの魅力がある。「いつか訪ねたい場所」として、まずはこちらでの美術館散歩をお楽しみあれ。
大自然との調和を堪能するランドスケープミュージアム

あまたある美術館の中でも、傑出した「景観」が持つ土地のパワーを、余すところなく生かした美術館をご紹介。単なる風景美とは一線を画し、芸術と自然が織りなす美しい関係に心が躍る。
香川・高松
NAGARE STUDIO 流政之美術館
世界的彫刻家のスタジオで名だたる作品群に出合う


作家の美学が息づく彫刻庭園「天台の庭」
流 政之(1923~2018年)の名は知らなくとも、アメリカ『タイム』誌で三島由紀夫、川端康成、丹下健三、黒澤 明とともに「日本を代表する文化人」に選ばれた人物と聞けば、傑物ぶりがわかるだろう。「質より量。1万点はつくりたい」と語り、生涯精力的に制作し続けた彫刻は、国内外の美術館や公共施設に飾られている。
長崎出身の流が石の産地として名高い庵治村(現在の庵治町)で若い職人たちと制作活動を始めたのは30代後半の頃。数年後、ニューヨーク世界博覧会のため、石匠(せきしょう)6人を従えて渡米した彼は、日本から運んだ石2500個で大壁画を制作し、絶賛される。
帰国した彼が村の長老たちの案内で訪れたのは、現在美術館のある庵治半島東岸。「先生みたいな人は日の出の見えるところに住みなされ」と勧められ、朝焼けの美しいその地を拠点とすることを決意する。ニューヨークのワールド・トレード・センターのシンボルとなる彫刻の制作依頼がきたのは、スタジオができた翌年だった。
自分亡き後はスタジオも取り壊してほしいと話していた流だったが、周囲に説得され、残すことを承諾。今は、彼をよく知る石匠のメンバーが案内人を務め、誰もが憧れる紳士だったという彫刻家の人となりや制作秘話を伝えている。ここはまた、「手で触ってこそ深く感じられる」という流の考えから、作品に自由に触れられるのも魅力。来館の折にはぜひ、見て触れて、作品をじっくり味わってほしい。




Profile
流 政之(ながれ・まさゆき)

1923年長崎県生まれ。刀鍛冶、装丁家、海軍の零戦パイロットなどを経験。戦後、各地を放浪するなかで石に出合い、彫刻の道へ。アメリカを中心に海外で高い評価を得る。日本アカデミー賞のブロンズ像「映画神像」の作者で、作庭、陶芸、家具デザインも行った。
NAGARE STUDIO 流政之美術館
住所:香川県高松市庵治町3183-1
TEL:087-871-3011
開館時間:予約制。木曜~土曜の10時30分、13時の1日2回(約60分、定員10名)。美術館のウェブサイト(https://nagarestudio.jp)にて、見学希望日の60日前から3日前までに予約を。屋内の一部と庭園が見学できる。
休館日:日曜~水曜
料金:一般5000円
美術館の開館時間、休館日、展示期間、展示内容等は変更になる場合あり。お出かけ前に美術館の公式ホームページ等をご確認ください。
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[MEN’S EX Autumn 2024の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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