
時代を造ったクルマたち vol.09
ピニンファリーナのプライドをかけたコンセプトモデル
75年のフェラーリ史上初の4ドアモデル、 プロサングエは熱心なフェラーリオーナーたちから極めて高い評価を得ているようだ。9月のワールドプレミア時に、マーケティングトップのエンリコ・ガリエラが”想像を絶する事前注文をもらっている”と述べたように、これからオーダーを入れたところでデリバリーはいったいいつの日になるのか…。希少性を維持しつつ、V12気筒を搭載したユニークなSUV(フェラーリは決してそれをSUVとは呼ばないが)として独自の地位を確保することに成功したようだ。フェラーリのプロサングエ戦略は大成功だろう。
フェラーリがこれまでSUVをラインナップすることはある意味でそう難しいことではなかったのでは、と思われるかもしれない。フェラーリ フォー(FF)でエンジン前方にPTUを置くAWDシステムは確立していたから、GTC4ルッソの背丈を伸ばせばSUVの一丁上がりでは、と。しかしこの考えは必ずしも正しくない。4ドアモデルを一度も作ったことがないフェラーリにとっては、設計にまつわるすべてのセオリーを変える必要があるという点がその1。そして最も重要なのはリアを含み乗客の快適性に関する基準が、2ドアモデルと4ドアモデルでは大いに異なる。そう、ライバルはある意味で、ロールス・ロイスやメルセデス・ベンツになってしまうのだ。さらにもう一つの難題もある。今まで4ドアフェラーリは、フェラーリではないと語ってきた彼らの理屈をどのように取り下げるか、というポイントだ。そんな難題をプロサングエは上手く解決してしまったのだ。

さて、少し長い前置きとなったが今回取り上げるのは1980年に発表されたコンセプトモデル”フェラーリ ピニン”だ。結論から言えば、今から40年ほど前にフェラ-リがプランニングした4ドアサルーンは前述したポイントを解決することがならず、日の目を見ることはなかったのだ。

フェラーリ ピニンはピニンファリーナ創立50周年を記念して発表したフェラーリバッジの付いた4ドアサルーンであり、2+2モデル フェラーリ400のシャーシをベースに1台だけが製造された。この“ピニン”という名は当時のピニンファリーナのトップであったセルジオ・ピニンファリーナが社の創業者たる父ピニンに捧げるという重要な意味合いを持って付けられたもの。さらに社内開発コードは累計1000台目という記念すべきプロジェクトとしてPF1000とも付けられていた。つまり、ピニンファリーナのプライドをかけた一台だったのだ。彼らとしてはこのモデルを何としてもフェラーリ史上初の4ドアサルーンとして市販化しようと考えていたのだ。