
時代を造ったクルマたち vol.08
>>前編はこちら
幕引きに手間取りつつも最後まで人気だったヒット作
マセラティ グラントゥーリズモはマセラティを代表するヒット作であったことは間違いなかった。2019年にはその幕引きに相応しい最後の1台であり、かつワンオフモデルのZeda(ゼダ)が発表され、日本を含む世界各国でお披露目が行われた。この“ゼダ”とはモデナ地方の方言でもあり、アルファベットのZを意味した。グラントゥーリズモはこのゼダでいったん打ち止めとなるものの、そこには新たな始まりが待っているという想いがこめられていると説明された。グラントゥーリズモは2万8805台、そしてグランカブリオが1万1715台、両モデル合わせて4万台ほどが13年ほどの間にマセラティスタの手に渡った。

このグラントゥーリズモの幕引きには少し混乱があった。フェラーリがFCAグループ(現ステランティス)からスピンアウトしたことで、既にマセラティとの資本関係はなくなっていたが、両社のトップを牛耳るセルジオ・マルキオンネの存在によって両社の関係は繋がっていた。その両社の力学が微妙に変化することで、グラントゥーリズモ後継モデルの計画は翻弄された。共同開発によるエンジンや、シャーシ設計ノウハウなどに両社の関係性は不可欠なものがあったのだ。大喝采で迎えられた2+2モデルのコンセプトモデル、アルフィエーリもその時期に検討された1台だが、まさにそんな理由でプロジェクトが承認されず、結局は消滅してしまった。そんな中で、その司令塔たるマルキオンネが亡くなってしまったので次期グラントゥーリズモの開発を巡る事態はますます混乱していった。

グラントゥーリズモは生産終了が決定し、各ディーラーも最終モデルということで受注したにもかかわらず、再び2018年モデルがファイナル・エディションとして復活するという異例の事態となった。エンジンを製造するフェラーリにおいては既にV8系自然吸気エンジンは新世代ターボエンジンへと移り変わっていたから、グラントゥーリズモだけの為に少量生産を行わなければならないのは効率が悪かったし、燃料消費量や排気ガス規制などでこのファイナル・エディションは日本を含む限られたマーケットのみへの販売となった。しかしマセラティにとって2ドアスポーツカーがラインナップから外れる期間は極力短くしたかったのだ。
このような混乱はあったものの、モデル末期となってもグラントゥーリズモ人気はとても高かった。全く古さを感じさせない素晴らしいスタイリングを備えつつ、実用性、そして高い動力性能と古典的スポーツカーの味わいという魅力は色あせることがなかったのだ。シンプルで古さを感じさせないシステムが用いられたし、細かなアップデートが絶えず行われたこともあり、その信頼性も当時のマセラティの中では群を抜いて高かった。そんなヒット作であるからこそ次のモデルの企画はとても難しい。
