
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンをご紹介。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第39弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.39 / 「ジョージ クレバリー」の外羽根セミブローグ

’90年代半ば頃に購入しました。1993年にPOULSEN SKONE(ポールセン スコーン)に在籍していたJOHN CARNERA(ジョン・カネーラ)とGEORGE GLASGOW(ジョージ・グラスゴー)が独立し、’70年代にブランドを休止していたGEORGE CLEVERLEY(ジョージ クレバリー)を再始動します。
そして、POULSEN SKONE時代から彼らと密接な関係であったBEAMSもGEORGE CLEVERLEYのレディメイドを展開することになりました。
BEAMSでレディメイドの展開を始めたのが1994年。駆け出しのバイヤーだった私も展開を始めるにあたり、彼らから提案されたサンプルとBEAMSのリクエストで作られたサンプルを含めてバリエーションを検討しました。
ポールセン スコーン時代から人気だったチャッカブーツやセミブローグ、ノルウィージャンオックス(U-TIP)など、当時英国靴で人気だった定番モデルの展開は外せず、それらのモデルがラインアップの中心となりましたが、個人的にどうしても展開したかったモデルが外羽根のセミブローグでした。
特にタバコスエードをのせた外羽根のダービーは個人的にも履きたいモデルだったので、私のリクエストでサンプルを作ってもらい、修正を重ねラインアップに加えました。
今は英国靴のスエードと言えばダークブラウンが多いですが、’90年代の半ば頃はタバコスエードがポピュラーで、特にBEAMSではスタッフや顧客の方々が好きだったこともあり、’80年代からさまざまなモデルで展開していました。
当時は英国調の流れが来ていたので、靴の合わせ方も英国的なルールを守ることを重んじる時代でした。
今はタッセルやローファーなどスリッポンがスポーティーな靴の定番になっていますが、当時はスリッポンよりもオックスフォードの靴が一般的だったので、紐靴の中でスポーティーなものとドレッシーなものを使い分けることが重要でした。
内羽根はドレッシー、外羽根はスポーティー、カーフはドレッシーでスエードはスポーティーという、今では靴好きの人なら誰でも知っている基本を守り忠実に実践していた時代、このタバコスエードのダービーシューズは、今で言えばタッセルスリッポンと同じ感覚のスポーティーな靴として、主にジャケットスタイルに合わせて履いていました。
’90年代後半にイタリアのクラシックスタイルの波が来ると、ドレスシューズはカーフが主流となり、スエードも当時イタリアで人気だったダークブラウンが主流となります。
そのタイミングでこの靴の出番も減り、2000年代に入ると履くこともほとんどなくなりますが、いつかまた履くときが来ると思い断捨離せずに保管してきました。
数年前からベージュやブラウンのスーツを着ることが増えたので、タバコスエードの靴を合わせてもいいなと思い、保管していた屋根裏からシューズクローゼットに戻しました。今シーズンはベージュやブラウンのコットンスーツと合わせて履こうと思っています。
クレバリーの展開を始めた時に自分の思い入れもあってオーダーしたこの靴は、仮に今後また出番がなくなったとしても断捨離することはないでしょう。
特に貴重な靴ではないですが、自分のバイイング歴の中でもBEAMSらしい靴の一つであることは間違いありません。