
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンをご紹介。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第35弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.35 / リーバイス 518 コーデュロイ

’90年代後半に購入しました。家族で休日に吉祥寺の街を歩いていると、あるジーンズショップのセールのワゴンの中にコーデュロイのファイブポケットを見つけました。
何げなく手に取って見るとブランドはリーバイス。フラッシャーもウエストのパッチも付いていないので日本製か……と思いきや、内側のタグには日本語でアメリカ製の文字。ポケットのタブもBIG E。試着してみるとシルエットも良く、値段も5~6千円だったので、モデルナンバーもわからないまま軽い気持ちで購入しました。
私にとっては、漂白がかかったさらしのホワイトではなく、生成りがかったオフホワイトがホワイトジーンズのイメージです。
BEAMSに入社して先輩たちに勧められて初めて買ったホワイトジーンズも、リーバイスの505のオフホワイトのカツラギ。このリーバイスのカツラギの505はBEAMSのスタッフにとってはフレンチアイビーのマストアイテムだったので、当時持っていなくてはならないものでした。
’80年代から’90年代前半頃は、ジャケット×ホワイトジーンズにレザーシューズというスタイルがフレンチアイビーの定番スタイルで、とにかくホワイトジーンズにスニーカーではなく、レザーシューズを合わせるというのがBEAMSのスタイルでした。
今では考えられませんが、私もガンクラブチェックのジャケットにオフホワイトのカツラギの505、足元はオールデンのタッセルというスタイルを好んでしていました。
そんなオフホワイトのファイブポケットに対する思いもあり、当然このコーデュロイのリーバイスが刺さらないわけはなく、購入してからもしばらく休日によく穿いていました。
当時すでにフレンチアイビーの流れは終わっていたので、コーディネートのイメージは英国でした。ちょうどロンドンのハケットが少しアメリカっぽいテイストを打ち出し、コーデュロイのファイブポケットを展開していて、さらにファッション業界人が注目していたPIOMBO(ピオンボ)でも、コーデュロイのファイブポケットにカラフルなシェットランドセーター、足元はデザートブーツという、アングロテイストのカジュアルスタイルを打ち出していたこともあり、私もそんなスタイルを好んでしていました。
その後2000年代に入りイタリアブームになると、イタリアのデニムブランドでオフホワイトのコーデュロイのファイブポケットを何本も購入しましたが、イタリアのコーデュロイはほとんどが後染め(製品染め)で、アメリカのコーデュロイのように生地染めのモノを使わないので、色も生地の雰囲気も当然アメリカのモノとは違う感じに仕上がり、なんとなく違和感がありながら穿いていました。
ここ数年は自分の中でも’80年代や’90年代に着ていたアイテムがリバイバルしているので、久しぶりにこのオフホワイトのコーデュロイを穿きたくなり、クローゼットから引っ張り出して穿いてみましたが、残念ながらウエストサイズが小さく穿くことができませんでした。
周りからは体形が変わらないと言われますが、さすがに20年前と同じ体形をキープすることはできていないということですね(苦笑)。
最近、正体不明のこのリーバイスのコーデュロイをビンテージウェアに詳しいスタッフに見てもらったところ、1999年の2月にアメリカのバレンシア工場で作られたもので、リーバイスジャパンの限定規格品の518ではないかということがわかりました。
価値があるものなのか邪道なのかわかりませんが、オフホワイトのコーデュロイは私にとって永遠の定番なので、私が所有する数少ないアメリカ製のリーバイスとしてこれからも残していこうと思っています。