
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンがスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第23弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.23 /DONNACHIEのニット

私がBEAMSに入社した当時、BEAMSのスタッフが絶対に持っていなければならないと言われたマストアイテムのひとつがDONNACHIE(ドナチー)のニットでした。
ドナチーはスコットランドにあった高級ニットメーカー ROBERTSON OF DUNFRIESのブランドで、当時の日本では代理店がなかったこともあり、インポーターがROBERTSON、DRUMOHR、DONNACHIEという3つのブランド名で展開していました。
BEAMSは取引のあったインポーターがDONACCHIEのネームを使っていたのでドナチーのネームで展開していましたが、一般的にはロバートソンのネームで展開してショップが多かったように記憶しています。
見た目は当時どこにでもあったスコットランド製の定番ニットだったので、なぜドナチーがそれほどまでにマストアイテムなのか、新人の自分には正直よくわかりませんでした。
初めて買ったのはネイビーのVネック。当時はカラフルなニットが人気だったので、なんでそんな普通の色を買うのかと先輩たちに言われましたが、最初に基本の色をおさえるというのが私のポリーシーで、それは今も変わっていません。
このニットを実際に買って着てみると、先輩たちがマストアイテムだと言う理由がすぐにわかりました。
ブランドネームにSUPER GEELONG LAMBSWOOLと記載されていますが、その名のとおり最高級のジーロン ラムズウールは、自分が知っている他のスコットランドのラムズウールのニットとは比べものにならないほど上質感がありました。
そして、当時のスコットランドのニットは日本人が着るにはオーバーサイズのものが多く、流れ的にもオーバーサイズがトレンドでしたが、ポロシャツとニットはジャストサイズで着るのがBEAMSのスタイルだったので、タイトめのフィットのドナチーがスタッフにも顧客様にも支持されるのは新人の私にも容易に理解できました。
以前この連載でご紹介したフレンチラコステと同様に、入荷するとスタッフと顧客様でほぼ完売してしまうという人気アイテムでした。ドナチーのニットを何色持っているかスタッフ同士であらそうというのもフレンチラコステと同じ。’80年代はそんな定番アイテムが注目される良い時代でした。
その後、2000年代に入りROBERTSON OF DUNFRIESはイタリアの会社に買収され、DRUMOHRとして新たにスタートします。
そして、BEAMS F 40周年に際してDONNACHIEのニットを復活させます。当時と同じワンプライのジーロング ラムズウールで、ネームも私の持っているこの2枚のニットをもとにできるだけ忠実に再現しました。
スコットランドのファクトリーは無くなりイタリア製にはなりましたが、BEAMSの伝統を継承していくうえで、とても重要なブランドと思っています。
この2枚のニットは、私の洋服屋人生の中でも忘れられないものです。 今も着られるクオリティーですが、大切なアーカイブなので、今着るものは現行のドナチーを買って、この2枚のドナチーは大切に保管していきます。