“自動車メーカーが考えるのは人間味を感じさせる自動運転”

各自動車メーカーが度々用いる言葉「CASE」とは、「つながる、自動化、共有、電動化」など、次世代モビリティの在り方を示すキーワードである。トヨタが2019年3月期の決算で発表した数字によると開発研究費1兆488億円のうち、CASEに関する開発は約5000億円。人とクルマが助け合う「自動運転」、安全性第一の「AI」など、ビッグプロジェクトとしてその取り組みを加速させている。
自動車の世界は今後はどんな進化を遂げていくのか。その道に精通する評論家の島下泰久氏に尋ねてみた。「自動車の未来で最も関心が高いのはやっぱり自動運転化だと思います。現在、市販されているのはレベル2と言われる加減速、操舵ともドライバーが責任を負う“運転支援”ですが、年内には特定の条件下で運転をクルマに任せてスマホなどを見ていてもいいレベル3が遂に実用化され、まず次期型ホンダ レジェンドに搭載される見込みです。無論、レクサス、メルセデス・ベンツ、BMWなども準備を進めているでしょう。当面は高速道路にのみ対応となりそうですが、進化のスピードは高まってきていますね。もちろん、完全な自動運転であるレベル5までの道のりはまだまだ果てしなく遠いのですが、着実に近づいてはいますね」
もしそれらの技術が普及すると、クルマもクルマのある生活も大きく変わると思われる。「新型コロナ騒動によって快適に楽しく安全に移動する手段として自動車の価値が高まったとも言えるでしょう。ただ移動するのでなく、そこに楽しさや快適性を加えることができるのが自動車です。長距離ドライブで疲れた帰りの高速は自動運転で帰り、車内では映画を見ながら……そんなことも可能になる日が近づいています」
自動運転、AI化など楽しみな反面、自動車としての味がなくなるという声もある。「新型コロナ収束後の自動車メーカーの課題のひとつがそれですね。例えばトヨタは豊田章男社長が『自動運転にも人間味を』と発言しています。自動車がただの移動手段にはなってはいけない。そこに楽しさや感動のような”尊い“ものがなくてはいけないと。それが自動車メーカーの大切な務めなのだということですね。トヨタは実験都市まで作って、それを実現しようとしているところです。その本気には私も期待しているんです」
トヨタが作る街 新技術の実証都市

ロボット、パーソナルモビリティを検証するための街「Woven City」。2021年から着工され、最初は関係者2000名程度の住民が暮らすことになるという。未来都市の第一歩になるか、注目が集まる。
現在、そして近未来実際に手に入る次世代の技術たち
profile

モータージャーナリスト
島下 泰久さん
新型車、新技術の批評だけでなく、環境や安全、自動運転技術にサステナビリティ等々、クルマをとりまく様々なテーマに精通。トヨタの実験都市「Woven City」入居を思案中。
[MEN’S EX2020年8月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)