
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第14弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.14 /「カトラー&グロス」のサングラス

1990年代前半に購入したサングラスです。
私が1985年にBEAMSに入社してから今までのあいだに、スタッフの中で盛り上がり、とても人気のあったブランドが数々あります。このCUTLER AND GROSS(カトラー アンド グロス)もそのひとつで、’90年代前半にスタッフのあいだでとても人気のあったアイウェアブランドでした。カトラー アンド グロスは、1969年にロンドンにてオプティシアンだったグラハム・カトラーと、トニー・グロスの二人によって創業された英国のアイウェアブランドです。
当時の日本でカトラー アンド グロスは一部の感度の高い眼鏡店で取り扱いがありましたが、洋服屋で扱っていたのはおそらくBEAMSだけだったと思います。レイバンのウェイファーラーしか持っていなかった自分にとって、英国のヴィンテージのアイウェアコレクターである二人がつくるヴィンテージ感漂うデザインは、まだ20代後半だった私にとって正直その良さを理解するのは難しく、アイウェアに詳しい先輩のアドバイスをもらい、当時私がしていた英国調のスタイルに一番合う、このモデルを購入しました。
その後、アシスタントバイヤーになると、海外のバイイングに同行するようになり、上司についてロンドンのナイトブリッジにあった本店や、パリのSEHM(当時ヨーロッパ最大のトレードショー)でコレクションを見るようになり、その頃になってやっとカトラー アンド グロスの良さを理解できるようになりました。
買ってはみたものの、若いころはなかなかサングラスがサマにならず、あまり使うことはなかったのですが、50歳を過ぎてやっと日常的に使うようになり、30年近く前に購入したこのカトラー アンド グロスを見ると、今のサングラスにはない、なんとも言えないヴィンテージ感あふれる趣があり、買った当時この良さをわからなかった自分は良いものを見る目がなかったなと、今更ながら反省しています。
カトラー アンド グロスのブランドは現在も存在しますが、このサングラスはある意味英国のファッションが元気だった時代のものなので、手放すことなく大切にしていきたいプロダクトのひとつです。