伊・財界の重鎮(リアル・エグゼクティブ)を読み解く、紳士に必要な装いとは
ベーシックを愛すその先に、エレガンスがある。

Luca Cordero di Montezemolo
「ルカ・コルデーロ・ディ・モンテゼーモロ」とは
1947年生まれ。ローマ大学、米・コロンビア大学で学んだ後、フェラーリのマネージャーに。フィアット関連会社を経て、’91年にフェラーリ社長となり同社を再建。伊・産業総連盟の会長、フィアット会長、アリタリア航空会長等要職を経て現在はテレトン財団プレジデント。
美しいものを選び、長く使い続けることだ。
── ルカ・ディ・コルデーロ・モンテゼーモロ氏
令和時代の新セオリーも、勿論ジャケットだけではない。エグゼクティブである読者諸兄に欠かせないのは、自分を律し、他者に安心感を与えるスーツだ。
近年、自由な装いが許される中、かえって“至極ベーシックなスーツ”を着こなす人は、特別に“できる男”の印象を勝ち取っているのではないだろうか。その理由はなぜか。
長く、エグゼクティブなウェルドレッサーとして注目されているルカ・ディ・コルデーロ・モンテゼーモロ氏の装いを読み解くとしよう。

例えば、今では男の定番として読者諸兄にも親しみのあるジャケット+デニム(こちらの記事参照>>)だが、氏はまさにこのスタイルのパイオニアだった。そんな“スタイルのある”彼だが、ビジネスの場においては、スーツを着る。しかも、その多くがテーラーで仕立てたベーシックなものだ。
彼はイタリアで最も有名な実業家の1人だ。それにはやはり、イタリア人の誇りであるフェラーリを困難期から救い、今や多国籍合弁企業となったとはいえ、イタリアの象徴であるフィアットを再建した功績が大きい。
と同時に、貴族の末裔という家柄や、その甘いマスクに究極の洒落者であるという外見上の美しさも手伝い、氏はイタリアきってのスターエグゼクティブとして君臨してきた。72歳の現在も変わらず精力的に活動し、早口で饒舌なカリスマ性のあるトークも健在だ。

イタリアだけではない。氏は世界的にもウェルドレッサーとして知られ、イタリアンエレガンスの象徴とされてきた。そんな氏が常に愛してきたのは上質の美しいもの。特にMade in Italyの製品を好む。
そして常々「豪華なものではなく美しいものが好きだ」と語っている。それはラグジュアリーはあくまで一過性のものだが、美しいものというのは時間を超えて存在するということらしい。
美しいものはいつまでも残ると氏は考えている。「私は決して流行は追わない。よい物を情熱を持って選び、それを長く使い続けることがエレガンスだ」と言う。
そんなモンテゼーモロ氏が愛しているのはス・ミズーラのハンドメイドのジャケットやスーツ、そしてシャツ。それは好きな素材でディテールにこだわって自分のサイズに合わせて作ったアイテム達だ。
でもそれはモンテゼーモロ氏に限らず、イタリア人の永遠のセオリーでもある。彼らにとって、洋服は自分の体にフィットしたものでなければいけない。故にイタリアの真の洒落者たちはひいきのサルトを持っているし、たとえ仕立てのスーツを何着もオーダーできない人でもお直し屋に出してジャストサイズにしてもらうのである。

だが、そんな中でモンテゼーモロ氏が特にお洒落だと言われるのは、その着こなしに少しプラスされたひねりや遊び心にあるのかもしれない。
モンテゼーモロ氏は「TPOは重視するが、その日の気分も反映させたい。ダークグレーやネイビーばかりではつまらないので、どこかに色を入れる」と言う。お洒落の正解は1つではなく、色々あってよいとモンテゼーモロ氏は考えている。
もちろんここまでのウェルドレッサーになるためには、プラスアルファの妙に左右される。が、エグゼクティブなるもの、まずは上質で究極のベーシックを追求したい。
[MEN’S EX 2020年4月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)