陶芸家×料理人が語る食事がもっと楽しめる引き立てあう美学
京料理の見所は、器にあり
旬の食材を惜しみなく使った京料理が美味しいのはもちろんだが、その料理を盛りつけた器の素晴らしさに思わず箸が止まり、料理と器のハーモニーに感嘆することが京の料理屋ではよくある。
京料理では「であいもん」という言葉を聞く。これは同じ季節に出回り、料理の相性がよい食材のことをいうが料理と器の関係もまた「であいもん」と呼べるのかもしれない。美しい器を使って、美味しい料理を供すると噂のお店に伺ってみた。
話したのはこの2人

土渕 善亜貴さん(陶葊)
京焼・清水焼窯元 陶葊四代目・当主。華やかで独創的な作品を生み出し、近年は結晶釉や窯変天目などにも力を入れている。
福原 英人さん(乃り英)
祗園の名店・乃り泉で修業を積み、2011年3月に一乗寺に乃り英を開店。旬の食材を活かした京料理は食通の間でも定評がある。
M.E.陶葊(とうあん)さんは、こちらの乃り英さんによくお越しになるのですか?
土渕さん(以下敬称略)私の友人がここによく来ていて、そのご縁で、時々伺うようになりました。
M.E.こちらでは陶葊さんの器を使っておられるそうですね。
福原さん(以下敬称略)私はまず器を見て盛るものを決めていきます。陶葊さんの器は一見豪華に見えるものもありますが、お料理を盛った時に料理を引き立ててくれるので、よく使わせてもらっています。
土渕お料理に使う器というのは、お料理を乗せた時に1番よく見えるように考えて作ります。一見地味に見える器でも、お料理を入れることによって料理も器も引き立つということを意識しています。そのためには自分もいろんなとこに行って食べて、いろんなもん見いひんかったら分からないやないですか。それが勉強やと思ってます。
M.E.乃り英さんの器を造られる時、意識していることはありますか。
土渕乃り英さんのお料理はクラシックというか、お仕事をきちんとされていて、今時の創作料理とは一線を画しています。お料理屋さんによってぜんぜんスタイルが違うので、他のお店ではもう少し現代風のものにしたりとかすることもあります。
福原私は派手なものより地味な感じのもの、古美術的なものが好きかな。
M.E.よく京焼ってどんなものを指すのかよく分からないと聞きますが、陶葊さんはどう考えておられますか?
土渕京焼の特長なんですがいろんなスタイルがあって、他の産地ですとだいたいそこで採れる土や材料を活かして、やきものが発展してきました。備前なら備前、信楽なら信楽と。ところが京都の場合はやきものが成立した時から、全国から職人を呼び寄せ、材料も持ち寄って造るという方法でやってきたので、全く新しいやきものを造って京焼と呼んでも違和感がないんです。
つまりスタイルがないというのが京焼の特長やと思います。うちとこの窯で造っているのは、形だけでも何百種類もあって、その中で絵付けだけでも約200通りの柄のバリエーションがあり、定番のものを多く造っていますが、一点ものも結構あります。江戸時代からずっと同じやり方で造っているクラシックな柄もあれば、今の時代でないと造れないもの、新しい技術を取り入れて造っているものなど様々です。
M.E.それではさっそく乃り英さんのお料理と器を拝見させてください。
福原1品目ですが「からすみ大根」です。器は木の葉天目の高杯小皿です。からすみのサイズと器の大きさがぴったりなので、からすみが引き立つように高杯を使っています。
2品目ですが「かますの一夜干し、松茸と京水菜のおひたし」です。この器は深いので、盛ると中でふわっと山のようになります。器は粉引の舟形鉢です。
3品目ですが「鯛のお造り」です。結晶釉の高杯の皿です。鯛は目出たいという意味もありますので、少し目立つようにと。色合いとしては、結晶の淡い感じが鯛の赤が締まって綺麗に見えるんで盛らせて頂きました。
4品目は「八寸」です。器は木の葉皿です。本来は銀杏や紅葉などのいろいろな落葉を使うのですが、ちょうど木の葉のいい色が出ていますのでそれを生かして盛りつけました。
5品目は「炊き合わせ」です。器は色絵紅葉文鉢です。秋の終わりの子持ち鮎と秋茄子ですね。もぎ茄子といって、近くの農家さんで作ってもらっています。色はどうしても子持ち鮎も茄子も黒っぽくなるので、紅葉の赤が綺麗なのでこの鉢を合わせました。
最後に土鍋です。10月いっぱいくらいまでは鱧しゃぶですが、11・12月になるとスッポンであったり、クエだったりします。もともと私が若い頃に修業をしてたお店の大将が陶器屋さんに頼んで、この大きさの土鍋を造ってもらっていました。土瓶蒸って冷めるじゃないですか、それは嫌やしということで造ってもらった形なんです。それがもう40、50年経つと割れて、なくなってきたんで陶葊さんに造ってもらいました。