
日々の仕事に追われてなかなか心休まる時間がない……。息抜きをしたくなったら、ちょっと遠出をして「美味しい」ひとときを過ごしてみるのはどうだろう? 旬の食材を、その味・食感・香りを引き立てる最高の料理、絶好のロケーションで楽しむ——そんな贅沢時間のヒントになる連載「星野リゾートのおいしい歳時記」。 10月は、東京・大手町で日本の食の歴史を学びながら楽しむ「ときの旅」へ——。
星野リゾートの「おいしい歳時記」第二回:「Nipponキュイジーヌ ときの旅」/星のや東京
東京都心、大手町。ひしめくビル群、足早に歩く人々の間をすり抜けて、一歩その扉の中に身を置くと、呼吸が自ずと静かに、深くなる。そこには温かい木と畳の香りのする空間、そしてゆったりとした気持ちになる、丁寧なもてなしの世界があった。
「都会のど真ん中に高級旅館を創る」という、前代未聞のプロジェクト、それが「星のや東京」だ。2014年に、大手町で温泉が湧出、ならばそこに旅館ができるのではないかという、星野リゾート代表の星野佳路氏の発想から始まった。自然の中でのくつろぎ感、日本の文化を、どのようにこの場所で伝えていくのか。

その秘密の一つが、入って左手の、栗の木の枠に竹を編み込んだ壁面にある。実はこれは靴箱で、モダンにデザインされた着物姿のスタッフが柔らかい物腰で靴を預かってくれ、宿泊客は館内では素足で過ごす。一部のフロアは木の床だが、それ以外は全て、エレベーターの中まで畳張りだ。壁に天然素材でもある手漉き和紙や職人仕事の漆喰を使った客室は、低い位置にベッドがあり、和の雰囲気を楽しめる。2階のロビーでは、夕方になると振る舞い酒があり、江戸の粋を感じる傘回しなどの曲芸が披露されるなど、日本の文化を感じる体験が盛り込まれている。

そして、事前予約制で、宿泊者のみがその「口福」を味わえるのが、ダイニング。フランス・リヨンで2年に一度行われる料理の国際コンテスト、「ボキューズ・ドール」で、日本人初の総合3位、魚料理で世界1位に輝いた、浜田統之料理長が提供する「Nipponキュイジーヌ」だ。
平成から令和に元号が変わった2019年。海に山に自然の恵みが味わいを増す季節の今、日本の歴史を振り返る「Nipponキュイジーヌ~ときの旅~」という特別コースが10月1日から1ヶ月の期間限定でスタートした。歴史を学ぶうちに縄文文化に魅せられたという浜田氏が、綿密な歴史研究のもと、旧石器時代から現代に至るまでの当時食べられていた食材や技法を現代の観点から表現する。
「旧石器時代、人間は鹿を狩ってこのように食べていたのだろう」「縄文時代に、土に穴を掘って魚を蒸し焼きにする技術が生まれた」——など、人間の進化とともに発展してきた日本の食の歴史を学びながら味わえるフルコースとは?