不要な回り道をせずに”上質”に辿りつきたい人のために、服飾界の目利きたちが頻繁に使う専門用語を解説。これらを覚えれば、今まで以上に高いレベルでモノの吟味ができるようになるだろう。
【な〜の】
ナッパレザー 革
本来、羊や山羊から作られるグローブや衣料に用いられる銀面つき革。米国・カリフォルニア州のナパ地域で作られていた革が語源で、二度の鞣し工程により、強靭ながら柔らかで光沢に富む。現在は牛革を鞣したソフトレザーを指すことも。
【は〜ほ】
袴タック 部位

オーダーパンツやクラシックな高級パンツの腰の裏地に見られる、着用感を高めるための仕様。プリーツをつけて生地をたるませることで腰の裏地はより人体の丸みに沿い、動きも阻害しない。ヒダが開くことで食事後の下腹の出っ張りにも対応する。
ハ刺し 製法
ビスポークスーツで多用される芯地を表生地に据えて固定するときの縫い方。縫い目がハの字になることからこの名が。芯地と表地に僅かな隙間を持たせてしつけるのがポイントで、表地が歪んだとき毛芯までつられて動いて歪むことを防ぐ。
パンチェリーナ 製法

複数のボタンで下腹を固定するクラシックなパンツの仕様。パンツがずり落ちにくく、太めの体型の人でもこの仕様であれば下腹をスマートに見せることができる。ちなみにパンチェリーナとはイタリア語で腹巻きの意味。
ハンドソーンウェルテッド 製法

ウェルテッド製法の原型で工程はすべて手作業。具体的には中底、インナー、アッパー、ウェルトの4枚を”すくい縫い”で接合。シャンクやコルクを詰めた後に、ウェルトと本底を”出し縫い”する。グッドイヤー製法のような凸型リブがないため返りがよく、形もスマートに。
ハンドロール仕立て 製法
裏地のないネクタイやチーフの生地の端を一枚一枚手で巻くように仕上げる製法。熟練の職人のみ可能な伝統的な仕上げだ。生地の縁がふんわりとした柔らかい表情になり、エレガントな存在感を持たせることができる。
ビキューナ 獣毛
南米高地に生息するラクダ科の動物。柔らかで吸い付くようなしっとりした風合いから”神の繊維”と称される。現在ロロ・ピアーナが優先的に取り扱うが、これは絶滅の危機に瀕していたビキューナを救うためにペルー政府を支援したからだ。
ピッチトヒール 製法

ヒール側面が接地面に向かって、徐々にテーパードするよう削られたヒールのこと。こうすることでヒールがすっきり見え、靴全体のシルエットも華奢に見える。高級ドレス靴に多い仕様だ。
Vスリット 製法

パンツのウエスマンの後ろ部分に入るV字型の切れ込みのこと。これがあることで座ったりかがんだりした際の腰周りのつっぱりを軽減。また生地にかかる力を分散することから、パンツ自体の耐久性もあがるといわれている。
フィドルバック 製法

靴のウエスト部分がキュッとシェイプし、かつ裏側から見ると本底の中央が山のように鋭角的に切り立った仕様のこと。ビスポーク靴に見られた贅沢な仕様だが、ガジアーノ&ガーリングなど高級既製靴にも採用される。バイオリンを思わせる官能的なラインに憧れる靴好きは多い。
ふせ縫い(巻き伏せ縫い) 製法
身頃の脇線や、袖筒の縫い合わせ部分で行われる縫製法。仕上がり線を縫製後、それぞれの生地の端を巻き込み、縫い代が外に出ないよう縫いあげる。上質なシャツは縫い代が4ミリ程になり縫い目がゴロつかず、着心地がよく仕上がる。
フラシ芯 製法
多くのシャツの場合、襟や袖の芯地は生地に接着されていることが多いが、一部の高級シャツは接着せず、生地と生地の間に挟んだだけの状態で仕上げている。このフラシ芯のほうが生地本来の風合いが楽しめ、襟の見た目も柔らか。着るほどに身体へ馴染んでいくのもメリットだ。
フル毛芯 製法

毛芯はスーツの前身頃の内部に縫い付けられる副資材で胸元の美しい膨らみを作る土台のパーツだ。フル毛芯とは、この毛芯を肩から裾下まで仕込んだもの(胸までしか入れないものは半毛芯)。高級スーツでは、通常の毛芯(写真のベージュの部分)の上に、胸と肩にかけてさらに毛芯を重ねる(写真の白い部分)2層構造のものが多く、馬の尾の毛で作られるバス芯がよく用いられる。
ベヴェルドウエスト 製法

ベヴェルドウエストとは、靴のウエスト部分を極限まで絞り込み、ソールを深く削り込む製法。多くは本底がウェルトやステッチごと内側に巻き込むように隠しており、横からだとウエスト部のみ極めて薄く見える。本来はビスポークの技法だ。
ペッカリー 革
南米に住むイノシシの仲間。その革は通気性や伸縮性に富み、濡れても硬くなりにくいという特性から、靴や手袋の超一流素材とされる。また非常にきめ細やかなため馴染みも良く、ペッカリーの手袋はそのままお札が数えられるほどだ。
ベンタイルクロス 素材

高番手双糸を高密度に織り込むことで、コットン100%の通気性や透湿性はそのまま、耐水性や防寒性を高めたギャバジン生地のこと。もともとは空軍パイロットが冷たい海に落ちても身を守れるよう、1930年代の英国で開発された。
ホールカット 製法

一枚革で贅沢に仕立てたフォーマル感の高い靴のことで、多くが踵部分にしか繋ぎ目を持たない。革質や吊り込みの良し悪しがダイレクトにわかるため、実力派のシューメーカーしか手掛けていない。写真:7万3000円/カルミナ(トレーディングポスト青山本店)
ホールガーメント 製法
丸ごと一枚の編み地でできた、接ぎ目のないニットウェアのこと。かつては手編みでしかできなかったが、島精機製作所が開発したホールガーメント横編み機により、多くの製品を作ることが可能に。
本かんぬき 製法
ネクタイは剣先の合わせ部分が開いてしまわないよう太いステッチでかんぬき止めされている。ここが糸によるコイルのようになっているものを「本かんぬき」と呼ぶ。丁寧に作られたタイの証だ。
本切羽 製法
ジャケットの袖ボタンが飾りではなく、実際に開け閉めできる仕様。より自然な袖口のあり方でスーツオーダーの際はぜひこだわりたい。あえていくつか外すことで袖口にニュアンスもつく。
※表示価格は税抜き
[MEN’S EX 2018年9月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)