WPHH 2018 (DAY 2)

時計人の夢を紡ぐウォッチランド
なんという緻密さであることか。それがこの時計を最初に見たときの、強い感動であった。
フライングトゥールビヨンとミニッツリピーターを組み合わせた「ヴァンガード トゥールビヨン ミニッツリピーター スケルトン」は、そのメカニズムの全てを、ケースの文字盤側や裏側から見る事ができるシースルーモデルだ。
しかもメインプレートやブリッジなどを、出来うる限りスケルトン化し、あらゆる部品のアングルに面取りの磨きを入れていて、何とも手間のかかる仕事ぶりである。
そしてそれには大きな理由がある。リピーターを作動させると、時、15分、そして分をカウントする、スネイルというカタツムリのような形のパーツや、様々なカムなどが一斉に狭い空間の中を動くから、部品同士が引っかかったりしないように部品を作り、細心の注意で組み立てなくてはならないのだ。
先進を意味する「ヴァンガード」のデザインと、スイスの伝統的な複雑時計のメカニズムが見事に融合し、新しい時代のフランク ミュラー時計の、見事なまでの存在感を生み出した。
このほかヴァンガードのシリーズからは、ヨッティングやダイバー、ワールドタイマーGMT、3ヶ国の時間を読み取れるマスターバンカーのスケルトンモデルなど、様々なバリエーションが発表された。
フランク ミュラー ウォッチランドは今、その広大な敷地の中、湖側に新しく2棟のアトリエを新設していて、今回その完成の姿はまだ見る事が出来なかったが、今年中には内部も完成するとのことで、さらに製造がスムースに進むこととなるだろう。
フランク ミュラーとヴァルタン シルマケスがこの、1905年にスイスの高名な建築家エドモン・ファティオが建てた、ゴシック様式のシャトーを手に入れたときの事を今でも思い出す。
シャトーの広大な庭に、牧童が追うたくさんの羊の群れがやってきて、草を食んでいたものだった。そしてそこが時計人の夢を紡ぐ、ウォッチランドと名付けられ、彼らの夢が大きく膨らみ、素晴らしい時計を次々と送り出してきたのだった。
こうしてウォッチランドを見ていると、四半世紀=25年のこの移り変わりが、思い出されてならなかった。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。SIHHは初回から欠かさず取材を重ね、今年で28回目。
撮影/岸田克法 文/松山 猛