
バーゼルワールドが終わると、西洋の暦では重要な節目であるパックァ=復活祭を迎える。
時計がサマータイムに切り替えられ、そして過ごし易い気候の日々が始まり、世界中からの観光客が、フィレンツェの中心部を埋め尽くすようになるのだ。
復活祭の日曜日に町を歩くと、大聖堂ドゥオモ周辺で、ルネッサンス時代の衣装を着た人々のグループに出会う。
古都の町並みを背景にした、派手なコスチュームの彼らは、まるでタイムマシンでやってきたかのように見えるから不思議だ。
4年ぶりに訪れた町を歩くと、若手のサルト達が新しく開いた、何軒もの仕立屋の店が目に付いた。そしてディスプレイの多くが、カラフルな印象なのだった。
それはあのルネッサンス時代のコスチュームを思わせるもので、男たちの服装が本来はカラフルな物だったのだと教えてくれるのだ。
リベラーノの店のウインドウにも、若草色のリネンのジャケットがトルソーに着せられ、濃いナス紺のニットタイが、それに合わされていて、相変わらずのお洒落なコーディネートぶりを見せてくれている。
店の人に来意を告げると、奥の方からアントニオさんが出てきてくれて、久しぶりの再会を喜んでくれた。もうすぐ彼は80歳を迎えるのだが、今も毎日仕事場に立ち、チームを陣頭指揮している。最近は世界を巡るトランク・ショウの方は、マネジャーに多くを任せて、彼自身はフィレンツェで仕事をするようになったのだとか。
仕立屋の守護神である、聖オモボーノの絵が飾られた仕事場で、迷いない手つきで、生地にチャコで線を引く。
アトリエには後継者を目指す若い職人の姿には、日本から来た人たちの姿もあった。フィレンツェ伝統の、素晴らしい仕立ての技術が、日本人の手によっても次の時代に受け継がれるのは喜ばしいことだ。
ぜひ彼らにはアントニオさんの美意識をも受け継いでほしいものだと思った。
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松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。