【中井貴一の好貴心】特別編《スニーカー今昔物語-後編-》

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“まだ生きていますよ”と言われた往時のスニーカーが教えてくれたこと

パリで購入した初の革製アディダス
パリで購入した初の革製アディダスは、現在も健在。当時の作りのよさが伺える。「スニーカーは、合わせるパンツの丈とテーパードの具合が大切」と中井さん。スーツに合わせる際にも吟味したいポイントだ。

今回、スニーカーを題材に選んだのには、もう一つ、理由があった。実家の靴箱の中から、2足のスニーカーを発見。1足は、17歳のとき、高校のマラソン大会で履いた、Onitsuka Tigerのランニングシューズ。もう1足は、20代の後半に、テニスをするためフランスで購入した、グリーンとイエローのラインが印象的なアディダスのステファン・エドバーグ シグネチャーモデル。エドバーグは超人気テニスプレイヤーだったが、当時はエドバーグモデルと意識せず、テニス用として購入。かなりテニスで本気使いしたせいで、ソールは結構すり減っていた。

さきほど触れた、初めてのフランスロケで購入したバスケットシューズ含め、全てのスニーカーは、ミントコンディションのデッドストックではなく、かなり履き込んでいる。どれもこれも、運動靴の寿命、いや、靴としての寿命はとうにすぎているはず。Onitsukaの靴にいたっては、光を浴びたのは約40年ぶりという代物。恐る恐る靴に足を滑り込ませたが、まだ、しっかり息がありそう。そうしたら、これを修理して、新たな生命を吹き込むことができないだろうか、という思いがムクムクと頭をもたげてきてしまったのである(これが、私の断捨離がなかなか進まない理由であることは、自分でもよ?く分かっているのだが……)。

以前、テレビで見たスニーカー修理専門店のことが記憶にあったので、必死でネット検索して、たぶんこれだと思われる業者を探し出し、早速連絡を取った。状態をざっと説明したが、現物を見てみないと何とも言えないとのことだったので、この2足を千葉県は成田方面にあるその修理専門店へと送り出した。

靴のリペア店は結構あるが、スニーカーとなると、あまり聞いたことがない。だからその修理専門店には全国から修理依頼品が殺到し、診断結果が出るのには結構時間がかかるとのことだった。

診断結果を知らせる電話がかかってきたのは、約3週間後のこと。首を長くして待っていた僕に、電話口の声は、優しくこう告げた。「この靴は、生きていますよ」

まるで何かの事故にあった家族や友人が無事だったと聞いたときの、安堵にも似た思いが込み上げてきた。「靴として、十分に生きております。もちろん、劣化している部分がなかったわけではないのですが、靴底のゴムもしっかりしたものです」

そう聞いて、すっかり嬉しくなった。同じメーカーでも、現在のように量産のスニーカーでは、こうはいかないだろう。Onitsuka Tigerは、当時どこぞのデパートのセール時に購入した安価なものだが、れっきとした日本製。アディダスは、現在ではありえないフランス製。当時、どのくらい量産されていたかは知る由もないが、きっとソールのゴムも各パーツの素材も縫製も、現在のものとは、質が違うのであろう。

靴のタンの部分のスポンジなど、修理に耐えない箇所はいくつかあったものの、2足ともソールの一部を補修しただけで、僕の手元に帰ってきた。それを眺めていたら、自然と笑みがこぼれてきたのは言うまでもない。

2024

VOL.341

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