「馬鹿げた欲望があるから新たなチャレンジができる」/映画『旅のおわり世界のはじまり』黒沢 清監督インタビュー

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国内外の映画人から絶対的な尊敬を集める黒沢清監督は、64歳になった今も自身のスタイルにとらわれることなく、作品ごとに新たな境地に挑み続ける映画作家だ。常に飽くなき好奇心を抱き続けられる理由は何なのか? 創造のモチベーションに迫る。

黒沢 清

黒沢 清 Kiyoshi Kurosawa


Profile
1955年、兵庫県生まれ。学生時代から自主映画製作に取り組む。『CURE』(1997年)で世界的に知られるようになり、2001年の『回路』が第54回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。さらに『トウキョウソナタ』(2008年)で第61回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞、『岸辺の旅』(2015年)が第68回の同部門で監督賞。2018年には、『散歩する侵略者』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得る。

非常にわかりやすくも馬鹿げた欲望があるから、いまだに新たなことにチャレンジできる

自分がもうちょっと頑張れば、もっといいものができるはず

’18年の5月、黒沢清監督は遠くウズベキスタンの地にいた。

「プロデューサーから、日本とウズベキスタンの合作映画を撮りませんか、と誘ってもらったのが発端です。条件は現地でのオールロケと、タシケントのナボイ劇場を登場させること。シルクロードへの憧れもあり、行ってみたい一心でお引き受けしました」

主演の葉子を演じるのは前田敦子。黒沢作品では、ウラジオストクで撮影した『Seventh Code』(’14)以来の主演作だ。

「これは秋元康さんもおっしゃっていたことですが、西洋と東洋が交差する、日本人からするとどことも言い難い国の中に前田敦子をポーンと入れてみたら面白いのでは、と直感で思いました。彼女は何でも取り入れる大きな容れ物でありながら、自身は絶対に変わらない強さがある。今回のロケーションにより、彼女の孤独や強さが際立てばいいなと思いました」

葉子が『不思議の国のアリス』さながら迷い込むのは、路地裏や地下道、ホテルの屋上など、裏側のウズベキスタン。完成した映画を見て、作品に関わった現地の人たちも「こんなところがあったなんて」と驚き、喜んだという。

「観光地や風光明媚な場所でも撮りましたが、表よりも“裏側”のほうが面白いですからね。当局が撮られるのを嫌がるところなど、プロデューサーが四苦八苦してくれたおかげで、たいていの場所は撮影当日になると撮り放題でした」

未知の土地で指揮を執る監督を、出演した加瀬亮は「いつもより楽しそうでした」と表現した。

「僕は忠実に仕事をしていただけで、『楽しんでいた』と言われるとやや心外ではあります(笑)。ただ、確かにこっちもあっちも撮りたいところだらけだったので、嬉しそうだったのかもしれません」

だからか、本作は黒沢作品史上類を見ないシンプルかつフレッシュなロードムービーに仕上がった。このキャリアで、自己を模倣せず、新境地に到達できるのはなぜか。

「自分のことはよくわかりませんが、映画がまだまだ未知の表現だからということに尽きるのでしょうね。自分が未熟ということもあり、何度やっても完成形がわからないので、試行錯誤するということですね。それと、幸いにしてとも残念ながらとも言えるのですが、僕自身がまだ大成功をしていないので、『この先にもっといいことがあるんじゃないか』『次こそはヒットさせたい』『もうちょっと褒められたい』という非常にわかりやすくも馬鹿げた欲望があるから、いまだに新たなことにチャレンジできているのだと思います」

これだけ評価されても、謙遜ではなく、本気で「自分はまだまだだ」と思う向上心に驚かされる。

「若い頃は、映画が失敗すると、予算や俳優、ロケ地などに責任転嫁していましたが、ここまで経験を積むと、脚本も自分で書いていますし、さすがに自分の責任だとわかります。同じ条件でも、自分がもうちょっと頑張れば、もっといいものができる。今はそう信じて、映画を作り続けています」

『旅のおわり世界のはじまり』

旅のおわり世界のはじまり

広大なる未知の土地・ウズベキスタンを彷徨う

歌手を夢見る葉子(前田敦子)は、テレビリポーターの仕事で訪れたウズベキスタンの劇場で、夢と現実が交差する不思議な経験をする。前田敦子を主演に、加瀬亮、染谷将太、柄本時生らのほか、ウズベキスタンの国民的俳優アディズ・ラジャボフが通訳役で出演している。 c2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/ UZBEKKINO

[MEN’S EX 2019年6月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)

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