SIHH取材 DAY 4

腕に乗せると不思議と懐かしさも!
ある時期から大きくなりがちだった、時計のサイズの見直しが始まり、最近は小さくてまとまりのある時計が注目され始めている。
そしてついに今年、38mmケースのパネライが出現して大きな話題となった。「ルミノール ドゥエ 3デイズ オートマティック アッチャイオ-38MM」は、今までのパネライ時計の中で、最も小さなケースで作られた。
なるほど現物を見ると確かにこれまでの、パネライのイメージを覆すサイズ感。だがなんだかその大きさが、懐かしくもあるから不思議だった。
腕に乗せると一段としっくりくる。スーツ姿の、シャツの袖にもよい感じで隠れるかもしれぬ、このサイズやまことによしだ。どこかノスタルジックな雰囲気もあり、なんだか昔こんな時計が、あったかもしれないという気にさせられる。このサイズなら手に入れて、使ってみたいという、パネライの新しいファンが増えるだろう。
一方、オーダーメイドのみによって作られるという、「ラストロノモ ルミノール 1950 トゥールビヨン ムーンフェイズ イクエーションオブタイム GMT-50MM」は、超絶的に複雑な時計である。
2010年に最初に作られたこのモデルの原型は、400年前にガリレオ・ガリレイが望遠鏡を完成させ、それによる天体観測の成果を讃えてつくられたもので、通常の時刻のほか、日の出、日の入り、均時差、トゥールビヨンなどを備えた、コンプリーケーションウォッチだった。
今回の時計はその発展形であり、スケルトン化されたムーブメントと、縦軸に回転するトゥールビヨンもすごいが、背面に配置されたムーンフェイズ機構が、とてもよくできているのである。デイ&ナイト機構を兼ねるディスクは二重になっていて、下の段のディスクが毎日6.1度ずつ回転しながら、正確に月相を示すという優れたものなのだ。
この時計はそれをオーダーした人が選んだ場所の座標に合わせて作られるから、オーナーは世界に一つだけの時計を手に入れる事ができるというわけだ。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。SIHHは初回から欠かさず取材を重ね、今年で28回目。
撮影/岸田克法 文/松山 猛